そんな「保証」で大丈夫か?大丈夫だ、問題なry)

しばしば契約において(特に知財被侵害条項)「〇〇を保証する」と強行に求めたり、逆に「保証は絶対回避する」などの交渉が行われるが、そもそも保証の意義は何であろうか。

三者(以上)間における債務保証

法律学小辞典[第5版]において、保証は「保証債務又は保証契約をいう[民446〜465]」としており、いわゆる金銭債務保証に用いられる債務保証を第一の保証の意義として挙げている。
これについては条文があるので深くは立ち入らないが、その内容からして当然に三者(以上)の関係性を前提にしている。

ということで、以下では二者間における保証を念頭にする。

法定の保証金

軽く触れる程度にするが、刑訴法ではいわゆる保釈金として「保証金」という定めがある(刑訴94条)。

金質(?)としての保証金

敷金の意味として保証金という言葉が使われることがある。
敷金の場合は民法的には「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」を意味することになる。

敷衍すれば「ある債務の不履行に備えてあらかじめ金銭を受領しておくこと。不履行があればその金銭を没収すること、逆に言えば履行があれば返還を約束すること」を保証という場合があろう。

この定義からすると、例えば新発売するゲームの内金(予約時に一定金額を前もって支払っておくケースにおいて、発売日に購入しなかった場合、販売者は他社に販売する機会を得るが、販売できなかった場合は保管あるいは廃棄コストを負う在庫リスクを抱えるため、予約者に販売できなかった場合の在庫リスクに相当するコストの全部又は一部を内金として徴収する、と捉えることができよう)、あるいは手付金が該当するであろう。
交通系ICカードにおける預り金(デポジット)が近そうに思える。

ただ、個人的には、敷金が賃料不払い時の充当資金である(そこに支払いを促すインセンティブはない)のに対し、後者は履行に対するインセンティブを兼ねているように思えるため、両者の経済学的な意義については違いを感じるところがある。

また、金銭債務に対しての保証金であればその対応関係はわかりやすい。
一方で前項のような「身柄の自由」と保釈金のような性質が異なる場合は対応関係が捉えにくい。

契約不適合責任またはアフターサポートしての保証

契約不適合か、そうでないか

日常的には家電製品で見る「◯年保証」の類である。
この場合は、民法・商法的な契約不適合責任以外に、法律上の担保責任を超えたアフターサポートを意味する場合がある。両者の関係は時間軸として区別されるパターン(法定の契約不適合責任期間満了後をカバーするアフターサポートの関係)以外にも、期間的に重複していてもより手厚いサービスを受けられるパターンなどがある。
iPhoneを例に取ると、AppleCareに加入せずに受けられる保証と、AppleCareの関係性になる。

契約不適合責任の場合は、担保期間・担保の効果(代品・減額・減額・賠償)が法定されているのに対し(契約条件により変更される場合はある)、任意のアフターサポートの場合は、適用される条件(対応する事象・期間)、効果(何をしてくれるか・有償無償の別など)は都度定められる。

この論点については会計においても論点になっている。

企業会計原則注解18では「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合」(品質保証型)については引当金を計上するとしている。ここにおいては「財又はサービスに対する保証が合意された仕様に従って機能することの保証」であり、契約不適合責任と同義と解することができる。
ヤマダホールディングスにおける「商品保証引当金」に関しては「販売した商品の保証に関わる将来の修理費用の支払いに備えるため、過去の修理実績に基づき翌連結会計年度以降の修理費用見込額を計上しております」と説明しており、これがあたる。

一方、上記ではなく、サービスを提供するものである場合は、履行義務として識別する。

ここにおいては、仮に法定の適合責任を否定しない場合において、引き渡し直後から保守サービスを提供するような場合は、厳密な意味では法定の適合保証と保守サービスが共存することになる。
システム開発においては、開発契約において成果物に関する契約不適合を定める一方で、引渡時から保守契約を別に締結する場合がある。
そうすると、契約不適合責任期間中に発現した契約不適合は、契約不適合責任として対応することもあれば、保守契約として対応することもある。修補に関してはいずれの契約を根拠にするせよ対応することに変わりなく、もっぱらは賠償する責任があるか否かに違いが出よう。

上記の品質保証かサービスかに関しては、対応者がメーカーか販売店かのような主体の違いによる識別の違いの観点もある。

warranty、assurance、serviceとしての保証

収益認識基準が参照したIFRSにおいても製品保証の会計処理について記述があるが、
・顧客が製品保証を独立で購入するオプションを有しておらず、
・製品はassuranceに加えてサービスを提供していない
ならば引当金、偶発負債及び偶発資産に従って処理する、
となっている。

さて、ここでassuranceが登場したので、英語における「保証」を確認しておこう。
英語においては「保証」としてwarrantyがあてられることが多いだろう。
IFRS15号においては、warrantyとしてassuranceとserviceの2類型があるとされる。それぞれ上記の品質保証と、履行義務に対応する。
つまり、会計におけるwarrantyとは、それ自体は日本法に引き直すと、契約不適合責任と保守サービスの両方を含意することがある。

この他に英文契約にはguarantyというのもある。意義としては上記の債務保証(三者間において、債務者(principaldebtor)が債務を履行しない場合に,これに代わって履行しなければならない他の者(guarantor)の債務と同じとする説明がある(阿部博友 著『リーガルイングリッシュ ビジネスコミュニケーションの技法』(中央経済社、2021年)86頁)。

英文契約では瑕疵担保責任・契約不適合責任に対応するdefect(瑕疵)という言及が登場することがある。ただし、その法的効果(責任内容)については日本法と同じとは限らず、「返品または交換を行うことを唯一の責任とする」と定める場合があり、賠償責任を否定するケースがある。またdefectの意味についても、仕様との不適合とするケース、一般的に要求される事項との不適合も含むケース、など、基準が定められる場合がある。

非保証条項における保証

しばしば契約や約款において、特定目的への適合性、商品性への非保証が規定されることがある。

この根拠はアメリカの統一商法典(UCC)とそれをもとにする米国企業が作成した契約・約款に由来する(いわゆる大文字で規定される条項)。

UCC Article10では、Goods(製品)の売主は買主に対し、「明示的保証と暗黙的保証」に関し、
・明示的保証違反は(たとえ買主が真実であると信じていなくても)賠償請求が認められ、
・暗黙的保証違反は、具体的な保証の有無を問わず、
「商品性」(その業界における製品の品質に関する一般的な認識を重要な基準とし、製品が最低限度満たすべき事項)
「目的適合性」(買主の特定の使用目的に適合していることの保証。ただし①売主が特定の使用目的を知っていたことあるいは知っているべきであったこと、および②買主が売主の製品に関する知見を信頼していたことが要件となる)に関し、救済(受領拒否、契約解除、賠償請求)が認められる。
(瀬川一真『米国法適用下における商取引契約書』)

M&Aにおける表明保証(過失責任の無過失責任化)

M&Aにおいては、買収対象会社の財務情報の開示を受けるのに先立って、秘密保持契約において、開示する情報に関して一定の保証をすることを織り込むことがある。
保証の内容は、
・開示する情報が開示時において正確であること
・簿外債務がないこと
・第三者と紛争が存在しないこと
など様々である。

いずれにおいても、買収者からは確信が持てないるいは知りようがないことが、被買収者にとっては確信が持てることあるいは把握しうることの情報非対称性を埋める働きに意義がある。

※両者が知り得ない事情は帰責事由のない事項の処理、あるいは不可抗力の問題となろう。もちろん交渉としては、このようないずれの当事者にも帰責事由のない事項についていずれの当事者に責任・負担を負わせるかについての交渉の可能性はある。

また通常の契約違反は、過失責任を原則とするのに対して、表明保証については単に保証事項に反する事実を持って契約違反とし、過失を問わない無過失責任とする意義があるとする説明もある。(熊木 明『負けない英文契約書 不利な条項への対応術』)

ただし、「事実」と「表明事項」との不一致を問題とする以上、「表明事項」が「どの時点」における事項を基準とするかについては留意すべきである。
例えば反社条項においては、「将来において」も反社に該当しないことを表明保証することを定めることが一般的であるのに対し、知財非侵害保証条項においてはしばしば「契約締結時点において」という時点の限定が行われる。

表明保証の意義(何に対し、どのような責任を負うか)

以下の事例がある。

東京地判平成18年1月17日(簿外債務の不存在に関する保証)

企業買収における株式譲渡契約において、売主らは買主に対し、対象会社の財務内容が貸借対照表のとおりであり、簿外債務等が存在しないこと等を表明保証し、加えて、売主らが表明保証に違反したことに起因又は関連して買主が現実に被った損害、損失を補償する旨の補償条項が定められていた。

実際は対象外者は赤字決算を回避するための会計処理を行っていた(簿外負債があった)ことが発覚し、買主は表明保証違反を主張して損害賠償請求をしたのであるが、買主が表明保証条項違反について知らず、また、知らなかったことについて重大な過失はないとして、売主らの補償義務が認められた。

東京地判平成23年4月19日(買収の判断にかかる重要度な事実に関する保証、表明保証の効果)

企業買収において、被買収会社の発行済株式の全部を取得する契約を締結するに際し、「売主は、対象会社の事業、経営、義務、債務又はその見通しに重大な影響を及ぼす可能性のある、対象会社を当事者とする未開示の契約はないこと及び上記の可能性のある債務不履行が発生しているとの通知を受領していないことを表明保証し、かかる表明が『重要な点で』正確である」ことを条件とし、売主は、表明保証の違反により、買主に生じた損害について、買主に対して補償する旨の条項等が定められていたが、被買収会社は上記の株式取得契約後に外注先との機会製造販売契約を解除し、代金を返還した。

これが「重要な点で」正確であったと認められるか否かが争点になったが、「重要な点」とは、「その違反が本件契約において企図されている取引を実行する買主の能力を損なうか損なう恐れがあると合理的に認められる影響」を意味するとの定義が付されており、株式取得を実行するかの判断を的確に行うために必要となる客観的に正確な情報が提供されていたかという観点から、実行前においては必要な情報を提供していたため不実の情報開示は認められないとされた。

※上記2事例については以下を参照。

また上記事案において、

  • 表明保証違反があっても何らかの債務不履行を構成するものではない。

  • 別段の合意がない限り、表明保証された通りの事実が存在することは契約の有効性または契約上の義務の履行の条件となるものではない。

という判断も示されている。

この事例からは、表明保証違反を理由として表明保証者の補償責任を追及し、または 表明保証の相手方が契約上の義務の履行を拒絶するためには、表明保証の内容通りの事実があることが履行の条件である旨(前提条件)や、表明保証違反に基づき買主に一定の権利が発生する旨(補償条項、解除条項、期限の利益喪失条項など)を契約上定めておくことが必要となる。
酒井 太郎「表明保証責任の対象となる不実開示の意義」

東京地判平成19年7月26日

本件は株式譲渡契約によるM&Aにおいて、「開示された資料等は、すべて真実かつ正確な情報を記載しており、重要な事項について記載がかけていない旨の表明保証」を行っていたが、裁判においては、「考え得るすべての事項を情報開示やその正確性保証の対象とするというのは非現実的であり、その対象は、自ら限定されて然るべきものである」として、表明保証規定は、「企業買収に応じるかどうか、あるいはその対価の額をどのように定めるかといった事柄に関する決定に影響を及ぼすような事項について、重大な相違や誤りがないことを保証したもの」であると解すべきであるとし、売主が提供した情報に重大な相違や誤りがあったかどうかという点を検討した。
必ずしも重大性の限定が付されていない表明保証条項についても、表明保証全体について重大性による限定を付したうえで、表明保証違反の有無を判断した。
この事例はRepresents and Warrants(レプワラ)の事例としても参考になろう。

知財被侵害保証における保証

有名な裁判例として、知財高判平成27年12月24日[兼松対ソフトバンク事件]がある。(余談だが裁判長は知財判例に頻出の髙部 眞規子氏である)
※なおこの事例は判決文を読む限りは、本件の当事者の対応から合理的な保証としての具体的な対応を認定した事例であると考えられるため、常に知財被侵害保証条項がこのような債務内容を意味するものではないと捉えるべきと考える。
同判決は、兼松がSBに販売したチップセットが第三者から特許侵害の警告を受け、SBが支払った解決金を兼松に賠償請求した事案である(争点の詳細は省略)。
この事案においては、両者間の基本契約において、納入物品について第三者の特許権を侵害しないことを保証する旨、侵害を理由とする紛争が生じた場合は、売主の費用と責任で解決し、買主に協力し、一切迷惑をかけない旨が規定されていた。
判決は同条項について、「同項の文言のみから,直ちに被控訴人の負うべき具体的な義務が発生す るものと認めることはできず,上記のとおり,同項は,被控訴人がとるべき包括的な義務を定めたものであって,被控訴人が負う具体的な義務の内容は,当該第三者による侵害の主張の態様やその内容,控訴人との協議等の具体的事情により定まるものと解するのが相当である。」とし、警告の状況と警告を受けたあとの両者の対応から、

  • 買主が権利者とライセンス契約を締結することが必要か否かを判断するため、特許の技術的分析を行い、特許の有効性、侵害するか否か等についての見解を資料とともに提示する義務

  • 合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を収集、提供しなければならない義務

と解釈し義務違反を認めた。

補償と保証を混同していないか

ここまでみてきたように、保証は「合意された仕様の担保(満たさなければ満たすように対応する)」や、合意されたサービスを意味することがあるが、「損害の金銭的な填補」という補償と混同される場合がある。

両者は法律効果(何をしなければいけないか)が異なるのであるから、区別すべきである。

まとめ

上記の事例からすれば、「保証」の意義は画一的なものではなく、事例において見極めつつ、以下の観点から要件(どのような条件を満たす)と効果(何をしなければいけないか)を規定する必要がある。

  • 何に関し両者の情報非対称性があるか。

  • 何を事実あるいは満たすと認めるのが重要か。

  • 上記に反する場合にどのような影響(損害などの不利益)があると想定し、見積もりるか。

  • 上記の低減あるいは回避手段はあるか(単に代品ややり直しで足りるか、情報漏洩等の場合は差し止めにより被害や損害を止められるか、両者の協調により被害・損害を小さくできるか)。

  • 保証を求める側が低減あるいは回避する手段を尽くしても被害が低減・回避しきれないのであれば、それを金銭的に解決(補償)する。

  • 上記の金銭補償の見積もりが難しく、相手に対する違反へのディスインセンティブが低ければ、一定額の違約金をあらかじめ定めておき、違反回避のインセンティブ兼ペナルティ兼救済とする。

上記を定めない場合、その意義は定まらないし、いざとなった際に有効に機能しないと考えられる。

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