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好きな音楽を聞かれて、ついはぐらかしてしまう

1か月くらい前にダウンロードした、Amazon Music のアプリを久々に立ち上げた。はじめのうちは聴いたことのある曲をプレイリストに入れて熱心に聴いていたが、数週間も経つとすっかりその熱も冷めてしまった。

音楽を聴きながら何かをするということが、たぶん得意じゃないんだろう。
知っている曲が流れると口ずさみたくなるし、歌詞をネットで調べたくなるし、歌詞がわかると繰り返し聴きたくなる。そうなるとわたしの全意識が音楽に向けられて、音楽はBGMにはなりえない。
今度は知らない曲を流してみると、なんとなく気が散って煩わしくなってくる。結局音楽を消してしまって、わたしは静寂のなかに帰ってくる。

小学生の頃、母がクラスメイトのMくんの母から聞いたこんな話を面白おかしく話していた。
Mくんは家で音読の宿題を聞いてもらうとき、「お母さんそっちでなんか喋ってて」と言い出したので不思議に思って理由を聞くと、「静かだと集中できない。教室はいつも騒がしいから」だと言ったんだそうだ。
多少の雑音が集中力を高めるということは、たしかにあるのだろう。わたしは同じ教室で過ごしていたけれど、Mくんには同意しかねる。静かな方が圧倒的に集中できる。

中学生の頃、人生で初めてジャニオタなる人たちに出会った。というか、小学校卒業と同時に転居して放り込まれた小さなコミュニティがジャニオタのそれだった。
わたしにとってそれは強烈なカルチャーショックで、NEWSもKAT-TUNも関ジャニ∞もこのときに顔を覚えた。学校に向かうバスの中ではみんな、iPodでジャニーズを聴いているか、Myojoを貸し借りしているかだった。わたしは「誰が好き?」って聞かれるたびに曖昧に笑って、話題が自然とほかに流れるのを待った。
推しは見つからなかったけれど、クリスマスには親にねだってiPod nanoを買ってもらった。はじめて所有した音楽プレイヤーだった。CDをいろいろ焼いてもらって、ライブラリーの曲を増やすのが楽しかった。でも家ではあんまり聴かなかったような。

音楽、何が好き?と聞かれたら、ついこうはぐらかしてしまう。
音楽がなくても生きていけるタイプの人間なのです。
数日無音でもたぶん心穏やかに過ごせる。無性に何かを聴きたくなったり、カラオケに行きたくなったりしない。カラオケはできることならこの先一生行かずに済めばいい。歌がうまい人は羨ましいし、わたしも腹の底から声を出して歌えたら気持ちがいいだろうと思う。でもほんとうはそれができないから、できない自分に気がつくより先に拒絶をしているのかもしれないな。

音楽はたぶん、わたしを揺らがす存在。
無知なわたし、音痴なわたし、自信のないわたしを隠そうとしてイヤホンをつけるのに、段々と化けの皮が剥がされて突きつけられている気がしてしまう。だから音楽の前では緊張するんだろう。

1か月前に取り繕うようにしてつくったプレイリストが耳に流れ込むと、懐かしさが全身を巡った。最初は嘘みたいに薄っぺらいものでも、持ち続ければそれなりになる。だからきっと、わたしはまた懲りずにプレイリストをつくるだろう。

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