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いつもと同じ1日の始まり

いつもより30分早く家を出て、駅前で買い物をしてから電車に乗る。それでも時間があまったから、NewDaysでピュレグミとトロピカーナのスムージーを買って一口飲む。
空は鈍色。リュックには、久々に水出しルイボスティーを入れた魔法瓶。500mlのミネラルウォーターを箱買いするようになってからすっかり出番がなかったのだ。
いつもより20分早い時間の電車は、いつもと変わらぬ混み具合。台風接近を知らせるアナウンス。

いつもと同じ1日の始まり、だけどいつもと少しずつ違う。

エスカレーターにぼんやり立っていたら、後ろで幼い子と母が昼ごはんを何にしようかと話し合う声がした。
母が笑いながら「なんで、いつもなでなでするの?」と聞く。「いたいいたいだからだよ」と子。
エスカレーターを降りるとき、ふと視界に入った幼いその子は、母のお腹をやさしく撫でて微笑んでいた。わたしまで思わず自分のお腹をさすっていた。幼いその子はきっと、かつて自分が育った場所を知っているだろう。

お気に入りのウサギが頬杖ついているTシャツは、もう何度も洗濯をしてヨレてしまった。お気に入りのテロテロ素材のプリーツパンツはウエストのところの糸が実は結構ほつれている。まあいっか、と今日も着る。
買ったばかりの物たちをエコバッグに入れて手に提げる。そういえばエコバッグもウサギ柄。電車で向かいに座っている人たちには、よほどのウサギ好きと思われているかもしれないなと心のなかで自嘲するけれど、すぐ思い直す。
みんな自分の手のなかのスマホに夢中だから、きっと目の前にウサギが2匹もいることに気づいちゃいないだろう。家に帰ったらもう1匹いるんだぞ。それも、本物のウサギだぞ。そのウサギに今しがたオシッコをかけられたばかりだけど。

乗り換え駅について、向かいに座っていた人たちとわたしは一斉に立ち上がり散り散りになった。
毎日すれ違う人たちが変わる。みんなわたしの知らない素敵な物語を抱えて、通り過ぎていく。わたしが一生知ることのないような物語が、すぐそばを通り過ぎていく。手を伸ばせば届きそうな距離だけど、わたしたちは敢えて手を伸ばさない。わたしたちはこんなに近くにいるのに、あまりにも他人だ。

乗り換え駅のホームのベンチに座り、何本も電車を見送る。わたしの前をたくさんの人が行き交い、誰もわたしが電車に乗らない理由を知らない。

いつもと同じ1日の始まり、だけどいつもとは少しずつ違う。
朝立て続けにアイスカフェオレと牛乳を飲んだせいか、お腹が冷える。この電車が出発したら、次の電車に乗ろう。

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