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ほっとけーきとムクドリと、餅をつかないうさぎ

お腹がペコペコだ。
空に浮かんだまんまるの大きなお月さまは、温かな赤みがかった色でおいしそう。
お団子というよりはお煎餅みたいな。あるいはホットケーキみたいな。

ホットケーキといえば、『しろくまちゃんのほっとけーき』は言わずもがなの不朽の名作である。
危なっかしいしろくまちゃんの手つきにハラハラしながら、
ぷつぷつ やけたかな まあだまだ
いつのまにか、わたしはすっかり引き込まれている。
しゅっ ぺたん ふくふく くんくん
固唾をのんで出来上がりを待っている。
山のように積み上がったホットケーキを、こぐまちゃんと2人でぺろりと平らげてしまうのが羨ましかった。ホットケーキ、つくろうかな。

まだ地平線に近いところに留まっていた月は、とても大きく見えた。目の錯覚って不思議だ。月との距離が縮まったわけでもないのに、すごく近くに感じる。それなのに、スマホのカメラを向けると途端に小さな光になってしまう。月も夕焼けも、わたしの両目で見たようには写真に映ってくれないものだ。

ここのところ、ムクドリの群れが毎日大騒ぎしながら、あっちの街路樹からこっちの電線へと忙しなく移動している。だけど今晩は控えめだ。どこかの木の陰から、そうっとお月見をしているのだろう。

空をのぼる月は、さっきより白くて明るい。暗い雲に隠されそうになりながらも、あたりをしっかり照らしている。スズムシが鳴いている。
表面に見えるのはきっと、餅つきうさぎ。秋の豊作を祝って、喜びのお餅つきをしているんだそう。
翻ってわが家のうさぎ(初老のオス、名はオハナ)は、同じ場所にじっと2時間は座りこみ、おしりの近くにコロコロの小さなウンチを転がしている。変わりばえのしない毎日を、食べて寛いで毛繕いして過ごしている。その違いはきっと、月にいるのがノウサギで、わが家の彼はアナウサギだからだろう。

一時は落ちついたかのように思われたお腹が、にわかにぐうぐうと騒ぎ出した。オハナさんのかわいいところは、ごはんがもらえると察すると全速力で駆けてくるところだ。月うさぎが腕を鳴らすなら、地うさぎは後ろ足を力強く蹴る。背に腹はかえられぬ。餅をつくうさぎも、ごはんを目指してダッシュするうさぎも、家路を急ぐわたしも。

空に浮かぶまんまるのお月さまは、わたしたちを見下ろして笑っているだろう。夕飯はオムライス。ケチャップは苦手だからかけない。バターのいい匂いが漂ってきて、オハナさんは鼻をぴくぴく動かし耳を立てて警戒する。たまごの黄色がますますわたしの食欲をかき立てる。

今晩は、中秋の名月。

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