#10 留置所からの告白(卑怯なやつ)

居場所を知らせるためだけの電報が届きます。

彼が手錠をかけられるまでの一週間を、ほぼ毎日一緒に過ごしていたせいで彼の不在は相当大きな穴となり、仕事をしていてもふと涙が出てしまう不安定な日々でした。
『悲劇のヒロイン』的な気持ちが全くなかったと言えば嘘になる、かと言って誰かに話せる事でもない…。

思い返せばこの時の私は、現実世界にいなかったかもしれません。
どこか別の世界で、それこそ映画『待つ女』主演、みたいな。

いる場所が分かったので、出来上がっていた『一緒にしたい100のこと』を宅急便で発送しました。いつも私がつけていた香水を一吹きして。
その後で、刑務所への差し入れや手紙でタブーとされている事を調べたところ、『❌香水』というのを知って愕然とするのです。彼の手元に届くことはないんだな、と。

私の手紙や宅急便が彼の手元に届く前に、電報に続いて彼からの手紙が届いてしまう。
向こうから出すのも、外からの受信も全て検閲されて合格してから初めて発送や手元に届くことになるとの事で、彼の手紙よりも私が送ったものに問題があるためにこのタイムラグが生まれている事は分かりました。
ポラロイド写真、シール、香り…とにかく加工のオンパレードで送ってしまったので、手元に届くのは愚か、一瞬だけでも彼の目に留まるのかどうかも絶望的でした。

そんな中、彼からの衝撃の手紙が届きます。

『ごめんなさい。大変申し訳ないことがあります。11月の伊豆旅行の帰り道にアクビのクレジットカードを勝手に使用してしまいました。金額は2万程度です。』

それって、泥棒ですよね。
理由をあれこれと長々と書き綴っていましたが、いま読み返してもチャンチャラ笑ってしまう内容です。

『自分でも理解出来ない行動です。約束です。二度とこのようなことはしません絶対に。アクビには全て本当のことをありのまま伝えます。ここから戻ったらすぐにお金は返します。男として人として誓います。』

後に、彼のお母さんと話していて言われたことですが、彼に限らず刑務所からの手紙というのは、本当に素晴らしく感動する内容のものが多い、と。涙してしまうような「もう一度この人を信じよう。以前とは別人に生まれ変わった!」と思わせる、悟りを開いた神様のような事を書いてくる、と。
正にです。だって、あの時のお金、まだ返して貰ってないんですから。

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