#14 雪の日

一度面会に行ってからは、「やっぱり顔を見て話すの大事!」「レスポンスが早いのいいわ」とチャンスを見つけては行こうとします。
が、そうそう仕事の都合がつく訳でもなく、2回目は仕事納めの日。
前回から3日後です。

その日は午後からの大掃除に間に合えばいいので、朝から電車で彼の元へ。生憎途中から雪ぐ振りだして、バスに乗り換える頃には道路も真っ白に。
急に思い立った面会だったので連絡も出来てなくて、1日1回の面会を私が使ってしまっていいものか悩みむしたが、とりあえず誰か来る予定があれば断ってくれればいい、と思い朝一番で待合室のドアを開けました。
まだ面会時間前なので暖房もついてなくて凍えるほど寒い!
隣にある差し入れの購買にやっと電気がついて暖房も入りました。
少しして廊下に異様な布の擦れる音が響きはじめ、豪快にドアが開いて田舎のヤンキー姉ちゃんが一人雪崩れ込んできます。
「さみーなー!ここさみーよ。なんだよ、暖房ついてんのかよ!」と叫びながら待合室の黒いベンチに寝転びます。
私、意外とこういう感じ嫌いじゃないんですよ。「今さっき暖房入ったみたいなんで」と彼女の方に体を捻って応えてみます。
「そっかー、早すぎたのかー。あんたも早いね」
「はい。どうしても30分欲しいんで。一番なら待たないし」
「だよねー。待つのかったりーもんねー」
そのまましばらく会話を交わしたのですが、彼女は旦那さん(籍は入っていない)が暴行で捕まっていて、しかも既に10回以上もこの状況を経験していて、でも毎日のように面会に来ているそう。割りと大きな子供もいて彼女の実家で母親と一緒に暮らしているけど、いつも母親に通報されるんだ、と愚痴っていました。子供に対する暴行だそうです。
「ダメじゃん!」と私が言うと、ガッハッハッと笑っていました。」
彼女が着ている大きめのジャンパーが可愛くて「それ可愛いね」と褒めると「いいでしょー!これアイツのなの。どうせいないんだから貰おうと思ってさー。」と子供みたいに笑いました。
「うちの、この辺じゃ有名なんだよ。昔は族の頭やっててさー、○○っていうの知ってる?」
「私、この辺じゃないので…」
「そっかー、あんたも男のとこにきたの?」
「はい。そうです。」
「うちのと同じ部屋だったりしてねー。聞いてみ」その辺りで私の番号が呼ばれます。
「じゃ、お先です。」

面会室で彼を待っていると、少し離れた廊下を歩きながらオヤジと話しているのが微かに聞こえてきます。
部屋のドアの前まできて「え?アクビ?!」
ガチャッ
「おーーーっ!ビックリしたー。誰かと思ったー!」
この時の彼の顔は今でも覚えています。
隣に立つオヤジの顔も。
『100のこと』と毎日の手紙で私の名前はそこの刑務所では相当有名になっていたそうです。
初めてではなかった彼に「そんな女性がいるのに何で戻ってきたんだ!」と馴染みのオヤジにかなり怒られたと後に話していました。
馴染みのオヤジ…まぁいっか。

思い返すと、この頃が一番良かった。面会にも行かれたし、彼からの手紙には愛されてるなぁと感じる言葉が沢山踊っていたし、何しろそれ以上の悪さは出来ない状態だったから。
思い出がキレイに輝きを増して行くだけで、私は自由だった。
出来るなら、この時に戻りたいと心底願います。

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