クイズ【quiz】(しりとり小説第8話)

出題者が既知の事実について質問をし、解答者がその質問に対する正解を答える遊び。

都内の貸し会議室ビル。
1つの部屋であるやりとりが始まった。

「それでは、始めますね」

「はい、本日はよろしくお願いいたします。」

うぅぅぅ緊張する。手汗止まらない。
ネクタイ曲がってないかな、、、あ、いかんいかん、笑顔笑顔。

普段と少し違うハキハキとした声で挨拶した私は、大学4年生。就活の真っ只中である。そして今日は2回目の面接。

噛まずに滑り出せたことに安心したのも束の間、頭は次の質問へ備える。

おそらく最初に聞かれるのは志望動機。大丈夫、ちゃんと答えは準備してある。

「それでは、クイズ形式で実施します。」

「承知しました、よろしくお願いいたします。」

...

...?

今、クイズって言った?
言ったよね?
就活生の緊張をほぐすジョークなのか。その割には面接官の顔は大真面目だ。
頭の理解が追いつかない。面接官は止まらない。

「それではいきます!問題。日本で1番高い山は何でしょう。」

...富士山!

富士山なんだけど...答えてしまうと、このおかしな状況を受け入れたことになってしまいそうで、声を発するのが躊躇われる。

「どうしましたか?回答をどうぞ」

急かす面接官。ふざけている様子は一切ない。もうこの状況を飲み込むしかないのか。迷う頭とは違って、面接官の急かす言葉に反応して口が動く。

「え、あっと、ふ、富士山です。」

ピンポーン!!!
派手な音が鳴った。

「...正解!残りあと4問です!」

思いの外、少ないノルマを提示されて驚きつつ、私の頭はもうクイズモードに切り替わっていた。あと4問正解して合格になるならやってやるとも。

「問題。世界で一番高い山は何でしょう。」

おいマジかよ。富士山に続いてエベレスト?簡単すぎないか。

「エベレストです!」

ピンポーン!2度目の正解音。

「せ、正解!順調ですね。残り3問です。そのペースで頑張ってください。」

よしよしよし。頭は混乱してるが、なんだかいけそうだぞ...。

「問題。日本で1番広い湖は何でしょう。」

...。

さすがに違和感を覚えてきた。馬鹿にされているとしか思えない。
なぜこんなクイズをするのですか、と質問することが正解なのか?だとしたらもう遅すぎるのか...?

この問題の答えは琵琶湖だ。小学生でも知っている。
ただ、本当にそう答えて良いのだろうか。

目の前に与えられたものに何の疑問も持たずに取り組むことが正解なのか?おかしいと思ったら言う、そんな人材が求められているとしたら...?

「どうしましたか?無回答ですと不採用になりますが、いかがなさいますか?」

こんな馬鹿げた状況にも関わらず、面接官の顔は一貫して大真面目。この不思議な空間を使って、私のことを見抜こうとしている...?

言うんだ。こんなのはおかしいと。面接をして欲しいと。私を見て欲しいと。

「あの、すみませ

「残り5秒です」

「えっ、いや、まっ

「5,4,3...


「琵琶湖です!!」

ピンポーン!!!

本来なら喜ばしいはずの音が嫌味を含んで鳴り響く。

「...す、素晴らしい!!残りあと2問です!」

素晴らしいって...琵琶湖は小学生でも知ってるだろうよ...。
自分の情けなさにショックを受けていても、お構いなしにクイズは進んでいく。

「問題!名人でも失敗することを表した、猿という動物を使ったことわざは?」

完全に馬鹿にされている。
さすがにやる気がなくなってきた。
何のために志望動機や自己PRを練習してきたのか...。
しかしここまで来ると、抵抗する気すら起きなくなってくる。

「さ...猿も木から落ちる...です」


...。


「...君さ、やる気あるの??」

心臓がひゅんとなる。明らかにやる気のない口調で答えてしまったことにハッとする。
そうだ、こんなフザけた状況なんて関係ない、俺は就活生だ。
面接の基本を思い出せ。明るくハキハキ、そんなのネットに頼らなくてもわかること。
ダメだ、雑念に惑わされては。目の前のことに誠実に向き合う、それが自分の良さだと、自ら決めたんじゃないか。

「申し訳ございません。さ、猿も木から落ちる!!です!!」

「あー...もういいです。不採用です。」


なんで!!!
部屋を出て行く面接官。頭の理解が追いつかない。
状況を飲み込めない私は殺風景な貸し会議室に1人ポツンと取り残される。
何がいけなかった?やはり「こんなのおかしい」と言うべきだった?
でもあんなの従うしかないじゃないか...世の就活生はこんな理不尽な状況にもクールに対応するのか?だとしたら俺には向いてない...。

そんなモヤモヤとした考えを胸に、会議室を出て、エレベーターへ向かう。

そこへ、後ろから唐突にかけられる声。

「?田口さん?田口さんですか?遅かったので心配しましたよ!面接会場にご案内します!」

???
また俺のことをからかうのか。
振り返ると見覚えのある採用担当の女性。

「面接官がお待ちしております、こちらへどうぞ!」

混乱しながら、ただ言われるがまま、先ほどとは違う会議室へ案内される。
会議室に入ると、そこで待っていたのは、大真面目な顔でクイズを出してくる面接官とは違う、優しそうな年配の男性。笑顔で迎えてくれた。



「さっきの子、何がしたいのか全然わからなくてさ〜」

「へぇ〜どんな?」

「全部大真面目にデカい声で正解しちゃうの。やる気あるの?って聞いたらデカい声で『猿も木から落ちる!!です!!』って(笑)」

「やべえ(笑)」

「バカにしてるのかと思って途中で終わりにしちゃったよ」

「え〜、最後にとっておきを用意してたかもよ?」

「ないない、あんなにピシッとスーツキメちゃって。就活生かよって感じだったね」

面接を終えた田口は満足そうに部屋を出る。
30分前に彼が不可思議な経験をした会議室にある貼り紙など気にも留めずに。

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木曜25時
新・大喜利番組
〜クイズの誤答で観客全員を笑わせろ〜

オーディション面接会場
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彼がなぜあの部屋に入ることになったのか、誰も知る由はない...。

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