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1. 幽遠の景を訪ねて隔世ドライブ

日本画家、石崎光瑤が20代に三たび訪れた「白水滝しらみずのたき」をどうしても見たくなった。

この滝を含む12キロにわたる飛騨の大白川おおじらかわ渓谷は、光瑤にとって「覚醒の地」あるいは「風景画の原点」と言ってよい場所だ。

「あれほど神々しい幽遠な景色は少ない」と光瑤は言い、その詩趣は黒部峡谷よりも上とみていたくらいである。

光瑤は現場主義だった。現場を観察し、そこで得たインスピレーションから人生を切り開いていった。

その典型例が大正5-6年のインドの旅ということになろうが、最初の例はたぶん白水滝しらみずのたきになる。光瑤生誕140年の節目に、私も現場に向かうことにした。

2024年5月26日の日曜日。福光ICから車を走らせた。若い時なら山旅の準備をして出掛けるところだが、この年になると手軽なドライブである。

白水滝しらみずのたきは東向きだ。陽光が差し込む午前中の方が条件がいいのはわかっていた。が、同乗者の都合から昼過ぎの出発、しかも5時間の制限付きだ。緑が濃く茂りすぎない5月下旬のうちにと考えた。

東海北陸道と国道156号を走り、大白川おおじらかわ渓谷の入り口に来た。光瑤が徒歩で3日間もかかったところをわずか1時間半、覚醒ならぬ隔世の感がある。

谷沿いの県道は3日前に冬期閉鎖が解除されたばかりだった。(つづく)

表紙写真は白水滝しらみずのたき

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