【資料】蘆谷蘆村「少年文学研究会に就て」1913年

蘆谷重常「少年文學研究會に就て」『教育的応用を主としたる童話の研究』

(1913年4月5日発行)

少年文學研究會は我國に於ける少年文學の研究に關する會合の嚆矢であつてまた現在に於ける唯一の團體である。其創立は極めて最近に属し、其事業も未だ見るべきものは少いが、兎に角従來少年文學といふものゝ輕視せられて居た我國に於て、如此き團體の成立を見るに至つたことは、又以て時世の進運を語るに足るものである。

実際我國に於ては、眞面目に少年文學といふものの價値を認めて居た人は甚だ少なかつた。況して、これが開拓を以て終世の任とするが如き人は、寥々暁天の星であつた。誠に残念なことである。併し時世は既に我國の少年文學の何時までかゝる状態に在ることを許さぬ。児童研究は此の十數年來著しき進歩を來し、初等教育は其内部に在てこそ様々な議論があるものの、目ざましい長足の進歩を遂げて居ることは疑ふべくもない。斯かる場合に於て、少年文學に關係あるものゝ發奮一番せねばならぬことは明かなことである。

茲に於てか少年文學研究會は生れた。其目的とする所は、廣く少年文學を研究して之が進歩發展を計ること、下等有害なる少年文學を駆除することである。第一回の會合は、明治四十五年八月四日會員竹貫直人氏の私宅に於て開かれ、爾來毎月一回づゝ會合を催して居る。既に実行せられた會の事業の重なるものを挙ぐれば、

(一)はお伽噺の研究である。之は毎月新作童話に關する批評研究を行ふので、豫め研究すべき童話を定め置き、會員各自これを研究して、毎月集會の度にこれを發表するのである。

(二)は少年書類の選定で、之は東京市立日比谷圖書館の委嘱により模範的少年書類目録を調査し、これを全國の各圖書館に配付した。

(三)はお伽噺の試作である。之は會員各自の信ずる所により、充分自信あるお伽噺を創作して見ることで、既に其結果は『お伽の森』といふ一冊子となつて、大正二年一月博文館より發行した。近く第二の試作集を公にする筈である。

以上の外尚既に着手せる、また、これより着手せんとする事業は甚だ多い。例せばお伽噺の話し方の如きお伽講演の如き模範童話の翻譯の如き、其他種々なる事業がある。また、雑誌發行の企も近々實現せられんとしてゐる。しかし本會の目的は、もとより聲を大にして花々しい活動をするのに存せず、摯實なる研究を以て少年文學の根本を究むるに存する。

兎にも角にもかくの如き團體の、始めて日本に出來たことは、我が愛すべき少年少女の爲に、誠に意を強くするに足ることである。これ著者が敢て一言を其紹介に費す所以である。

(2020-05-04 22:05:48)

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