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手相鑑定 碌々堂へようこそ②

第二話 人生を始めるために必要な三種の神器


人生を幸せにするために必要なもの。
お金?
愛情?
夢?
あなたにとって必要なものは何ですか?

新月の夜、
いつもの場所で
ろくがタバコをふかしながら
客を待っていると

小道に黒塗りの高級車が
無理やり入ってきた。

愛猫のミャーが
びっくりして
さっと建物の影に隠れた。

ガチャっと
運転席が開き
大柄のスーツの男がおりてきた。
年の頃は 40後半か、
イケイケのオーラを纏い

手首には
ジャラジャラと
パワーストーンの
数珠をつけ

ろくに向かって
話し出した。

「じゃまするで。
 あんたがよう当たる
 占い師さんなやろ?
 噂で聞いて 探したで。
 早速やけど
 ワシの金運どんなもんか
 見てくれへんか?」
 と男が言うと

ろくは
「恐れ入ります。
 わざわざ探してくださったのですね。
 ありがとうございます。
 では、鑑定の前に
 料金の説明をさせてください。」

ろくがそう言うと
男は食い気味で
「おぉ!知っとるで!
 高い料金取るんやろ?
 まぁえぇ ビジネスさえうまくいけば
 なんぼでもえぇで。」

ろくは
「初回は 1万円
 2回目は 5万円
 3回目は 10万円です。
 お一人 3回までしか 鑑定はしませんので
 あしからず。」
と、淡々と説明をした。


男は手を差し出し
「いや、今、ええ仕事の話がきてるんや。
 この流れに乗ったら
 大成功が見えてくる。
 正念場なんや!
 その、なんや、
 あんたの 筆で チョコチョコっと
 線書いてや。頼むわ。」

男はろくのことを
よく調べてきているようで
手相筆のことも知っていた。

ろくはふっと
男の目を見て
また手のひらに目を落とした。

「お客さんが
 お金儲けをする理由は
 なんですか?」
と聞いた。

男はドキッとした顔を見せた。

「なんや、ほれ、あれや。
 ワシは幼少の頃からひどく貧乏やったんや。
 親父が蒸発してもうたさかいな。
 母ちゃんが女手一つで育ててくれたんや。
 だから、贅沢がしたい。
 あんな辛い目にはもう おうたぁないんや。」

ろくがうんうんとうなずき
「そうですか。
 お母様はご健在ですか?」と男に聞いた。

「母ちゃんか?
 う、うん。
 元気にしとるんちゃうかな。
 今は、ワシも仕事が忙しいから
 一人で悠々時的に暮らしとるやろ。」

と、ろくに答えた。
そして男は続けた。
「そんな話はええやろ。
 金運や!仕事運や!
 ワシにはもう仕事しかあれへんのや。」
と、ろくに迫った。

ろくは
「わかりました。
 では、今のお仕事が軌道に乗るように
 金運の線を書き足しておきましょう。
 これで、今回のお仕事はうまくいくはずです。
 ただし、2週間です。
 その間に頑張ってくださいね。」
と、男に念を押した。

男は嬉しそうに
「おおきにおおきに!
 これでうまくいくわ!!
 1万円やったな。
 ほなこれな。」と
お金を置いたら
そそくさと車に乗って
走って行った。

ろくは、
袖からタバコを出し
月のない空を眺めながら
煙を大きく吐き出した。

ミャーがそばに寄ってきて
ろくから離れない。

ろくは
「ミャー子よ。
 怖かったな。
 でも、あれはあれで
 いいところもあるんだよ。」と呟き

帰り支度をして
立て看板にいつもの札を貼った。
”今月は終い。
次の新月の晩にお寄りください”
そして、
真っ暗な夜道を
スタスタとねぐらへと
帰って行った。


次の次の新月の夜。
ろくが女性を鑑定していると
黒塗りの車が
小道へとやってきた。

店の前に堂々と駐めた車の中から
男が降りてきた。

「おぉ!
 手相のにーちゃん。
 今日も見てや!!」

ろくが
「いらっしゃい。
 お客さん、申し訳ないです。
 今宵はもう他のお客さんがおられるので
 鑑定はできないのです。」
と伝えた。

男はろくに
「なんや!けちくさいな。
 頼むわ。こないだの仕事
 にーちゃんのおかげで
 大成功や!先方さんがもっと
 どでかい仕事回してくれたんや。」
と、大きな声で言い放った。

ろくは
「申し訳ないです。
 今日はお引き取りください。」と
男性の顔をみた。

男が
「なんやそれ。
 そや、おねーちゃん。
 ワシ、あんたの分、
 鑑定料払うさかい
 変わってくれへんか?」と
馴れ馴れしく 女性に話しかける。

女性は
「えっ・・・
 それは困ります。
 私もろくさんに見てもらいたくて
 きたのですから。」
と男に返す。

ろくは。
「わかりましたよ。
 あなたには負けました。
 この女性の鑑定が終わりましたら
 特別に見てあげましょう。
 その代わり、チップは弾んでもらいますよ。」」
と、男に伝えた。

男は、
「おおきにやで!
 ほな車で待ってるわ。」と
戻って行った。

ろくは女性に
詫びをいれ
鑑定を始めた。

30分が経ち
女性がお礼を言って
帰っていくと
男が出てきた。

「すまんなぁ〜
 無理いうて。
 あいたた・・・」
と男が顔をしかめる。

ろくが
「大丈夫ですか?
 大分、無理なさっている様子。
 少しは休まれたいいのに。」と
男を気遣うと

「いやいや。
 今は正念場や!
 休んでる暇なんかあるかいな。」と
男が答えると

ろくは
「前回も正念場って
言っておられましたよ。
とにかく、手のひらを見させてください。」と
男の両手を覗き込むと

親指の下あたりが
鬱血している。

ろくはそれを見ると
顔を一瞬しかめ
穏やかに話し出した。

「悪いことは言いません。
 明日、一番で病院へ行きなさい。
 あなたの体は悲鳴をあげていますよ。
 いいですか、お金は一円たりとも
 あの世に持っていくことはできないのです。」

男はろくの話を聞こうともせず
「ええから。
 また、筆でチャチャっと書いてーな。
 ははーん。わかったで にーちゃん。
 値段を吊り上げようって魂胆やな。
 そこはワシも商売人や。
 気持ちよくはろたるがな。
 1万円多めにつけるがな。」

ろくは
「そうですか。
 そこまでお金が大切なら仕方ありませんね。
 手のひらの真ん中に
 大きく十字の線を書いておきます。
 これで、運は上昇します。
 ただ、お金じゃ買えないものが
 あるんですよ。」
と男に伝えると。

「よし!にーちゃん。
 ありがとうやで!
 ほなこれな。」と
お金を渡した。

車に向かう男にろくは
「ちょいと!待ってください。
 お願いですから
 お母さまに連絡を入れてあげてください。
 あなたを心配されていますよ。」と伝えた。

男は右手を軽くあげ
車を走らせた。

ミャーが
シャッと車が走り去った方向に
砂をかけた。

「おやおや。
 今日は大変な一日でしたね。
 もう帰りましょう。」と

シケモクに火をつけ
ろくは大きく煙をはいた。

数日がたち、
ろくは病院にいた。

月に一回
持病の薬をもらいにくるのだ。

受付でお金を支払っていると
病院に響く声で
「おおーい!にーちゃんやないか。」と
あの男が声をかけてきた。

「おや、どうしたのですか?」
とろくが話しかけると

男は
「いやーにーちゃんの言う通りやったわ。
 ワシな 元は担ぐ方なんや。
 あの時、にーちゃんがわざわざ
 ワシを止めて 母ちゃんに連絡せぇって
 言ったやろ?
 気になってしもうて。
 母ちゃんに電話したら 
 電話にでよらんのや。
 慌てて、実家に帰ってみたら
 母ちゃん 蹲ってて
 ぎっくり腰で動けんかったって
 言うさかい 急いで病院に
 連れて行ったんや。」

ろくが
「そうだったんですね。
 で、お母さまはここに
 入院されているのですか?」
と尋ねると、

男は
「これはまた、違う話なんやけど、
 実はここはワシが入院しとうるんや。
 母ちゃんを病院に連れて行ったら
 医者がワシに 黄疸が出てるから
 あなたも検査しましょうって言いよるから
 受けたんや。」

ろくが「ほうほう」と
うなずくと

男が話を続け
「ほな、なんと、ワシの体に
 癌が見つかったって!
 驚いてしもて。
 でも、早期発見やったから
 取り除けば治る言うから
 今、ここで入院しとるんやわ。」

ろくが
「そうですか。
 それはよかったですね。」と話すと

「いやー命あっての物種やからな。
 おかげで仕事はあかんかったけど
 母ちゃんもワシも助かったから
 まぁ、これでよかったんかな。」
と、男が笑った。

ろくは
「人生を幸せに過ごすためには
 3つのものが必要なんです。
1つ目は あなたが好きなお金。
2つ目は 自由な時間。
3つ目は 健康な体。

例えば お金のがあっても
仕事ばかりで時間がなければ
やりたいことはできない。

あなたのように
健康を失っても同じことですね。

お金ばかりが
目につきますが
全部大事なものです。」

と男に伝えた。

男は素直に
「せやな。にーちゃんの言う通りや_
 ワシは守銭奴のように
 金ばっかり追いかけてた。
 金さえあれば幸せやって思ってた。
 いつのまにか
 嫁は子供とでていき
 しまいには 母ちゃんまで
 なくすとこやったわ。」
とろくに答えた。

ろくは
「ウンウン。そうだ。
 一つ謝らなければ
 いけないことがあります。」と
言い出した。

男は
「なんや!?」と聞き返す。

「2回目の手相鑑定の時に
 あなたに書いた線は
 神秘十字戦という線でした。
 これは、ご先祖様が
 守ってくださるという線です。
 手相を見てもボロボロの体とお見受けしたので
 この人を守ってほしいと
 書かせていただいたのです。」
とろくが伝えると

男は優しく
「ほーかほーか。
 ご先祖さんか。
 確かに守ってくれたんやな。
 体が良くなったら
 母ちゃんと一緒に墓参りでもいくわ。
 ほんで、またにーちゃんの鑑定にいくわな」
とろくに言った。

ろくは
「3回目ですから
 10万円ですよ!
 あと、横入りはもういけませんからね。」
と伝えた。

男は
「ワッハッハ!もうにーちゃんはかなわんで。
 でも、金だけじゃなく
 大切なことに気づかせてもうたな。
 ほんまにおおきにやで。」と
男はろくに感謝の気持ちを伝えて
病室へと戻って行った。

ろくは
病院を出て
ぶらりぶらりと歩きながら
夕暮れの街へと消えて行った。

また、新月の夜に
お目にかかりましょう。

おしまい

手相ワンポイントアドバイス

作中に出てきた神秘十字線は
手相の線の中でも
大事な線の一つです。
手のひらの真ん中に刻まれた十字の線。
あなたが大きな愛で守られている証。
この線がない人は
不運な事故に遭ったり
孤独な人生を歩むと言われています。

大丈夫。
きっとあなたの手相にも
刻まれているはずですから。



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