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手相鑑定 碌々堂へようこそ③

第3話 にくまんあげまんホクホクあったかい。

恋は下に心がつくから下心。
見返りを求めるものです。

さて、今夜は新月。
今宵のお客様は、、、

風がだいぶん、冷たさを増し
夏が終わったと思ったら
秋をすっ飛ばして
もう、冬が顔を覗かせてる。

寒くなると
温もりを求めるものです。

お鍋に おでん
それを 熱燗で
きゅっと追いかける。

寒いのは寒いので
楽しみがあるものですね。

ろくがホクホクと
食べてるのは
龍凛の肉まん。

お客さんからの差し入れ。

寒くなると
ぬくもりは
食べ物だけじゃなく
人恋しくもなるもので

この肉まんを差し入れてくれた
女性のお話。

「こんばんわ。」と
話しかけてきたのは

失礼ながら
お多福を地でいくような
なんとも めでたい顔の女性。

ろくが
「いらっしゃい。鑑定希望ですか?」と
尋ねると

「えぇ。
 お願いします。」と
答える彼女。

では、料金のご説明をと
切り出そうとした時、
「これよかったら」と
差し出してきたのが
先程の肉まん。

アツアツで
なんとも旨そうな香りが
充満する。

「ありがとうございます。
 長いこと鑑定をしていますが
 鑑定前に肉まんをいただいたのは
 初めてですよ。」
と、笑うろく。

「ここの肉まん本当においしいのよ。
 さぁ、熱いうちに召し上がって。」
と、すすめてくる女性。

ろくは 後でいただきますと 
言おうとしたが
まぁ、満面の笑みで
女性が羨望の眼差しで
見てくるものだから

「じゃあいただきます。」と
肉まんを半分に割って
ガブリ。
口の中に肉汁と熱さが
一気に押し寄せ
ハフハフとなるろく。

それを見て
「ろくさん 天秤座でしょ?
 天秤座の人は そうやって
 なんでも半分に割って食べるのよ。」

ろくは
はははっと
愛想笑いをしながら
肉まんを頬張った。

ペットボトルのお茶を飲み
落ち着いたところで

「ごちそうさまでした。
 おいしかったです。さて、鑑定と参りましょう。
 料金のご説明ですが」と言いかけた時

 「わかってるわ。
 私ね、付き合う男、付き合う男、
 みんな大成功していくのよ。
 それで、忙しくなってね、、、
 いつも、すれ違いで別れるの。」と
おもむろに話し出す彼女。

「ほーぉ。なるほど!
 では、両の手平をみせてもらいます。」

ろくがそう言うと
手をパッと開く女性。

手相鑑定するとき
鑑定士は この瞬間を
しっかりと見ている。

手を大きく開く人は
社交的で 大らかで
裏表がなく
ただ、金遣いは荒い。

手を閉じて出す人は
人見知りさんで
慎重派。
お金も節約家が多い。

孔雀が羽を広げるが如く
手を大きく広げた彼女。

ろくは、その手に
ある線を見つけた。

感情線が二又、三又、いやいや
これは五又に枝分かれしている
あげまん線の持ち主でした。

「これはすごい!」と
珍しくテンションが上がるろく。

あげまんもあげまん!
スーパーあげまん線の持ち主だった。

パートナーや
関わり合う人の運をあげていくのだ。

「見事なあげまん線ですね!
 そりゃあ、彼氏さんは
 大成功されるわけだ。」
とろくが伝えると
彼女はにっこりして

「そうなのよー。
 昔、中華街でみてもらった時も
 言われたわ。
 成功するのはいいのだけどねー。」
と、彼女がふと寂しそうな
表情をした。

「あげまん線の方は
 自分の運が上がるわけでは
 ないですからね。
 相方が上がっていくのを
 微笑ましく見守ってる。」
ろくがそう言うと

「そうね。 
 いつも、みんな私には
 感謝してるって
 言って離れていくの。」
彼女が大きなため息をひとつついた。

ろくが
「て、今回は次の相方を探してる
 と言うわけですね?」
そう言うと
彼女はニヤッと笑みを浮かべ

「ふふふっ
 流石ね。前の男も役員に出世して
 オフィスの若い子と浮気。
 たーんまり 慰謝料いただいたわ。」
と、話す彼女。

「でも、そろそろ、
 運命の人が現れて欲しい。
 そんなところですかね?」
ろくが聞くと

「そう言うこと。
 お金はもういいわ。
 私の心はお金では埋められないの。」
と、彼女。

「わかりましたよ。
 この手相筆で あげまん線を
 良妻賢母線に変えてましょう。
 きっと いいパートナーが現れます。」
ろくが雅な筆で感情線を
ちょいと書き足しました。

「ありがとう。
 これで私のあげまんも終わりね。」
そう呟く彼女。

「いやいや、
 あなたのあげまんは無くなりませんよ。
 例えばろうそくはその火を
 100本のろうそくに火を分けても
 それが原因でわ短くなるわけでは
 ないのです。

 私があなたの線をいじろうとも
 あなたの持つあげまんの運が 
 尽きることはありません。
 ただ、あなたの八方美人な性格を
 一途に変えただけですよ。」
と、ろくが伝えると

「あら、言うわねー。 
 確かに 私は八方美人だったかもね。 
 これで1人の人を支えられる
 そんな私に変わるかしら。」
と、彼女が言うと

ろくは優しく
「大丈夫です。私を信じて。
 あなたの運の向きを
 ちょいと変えただけですから。」

「わかったわ。 
 あなたを信じてみるわ。
 じゃあ これ。」と
白い封筒を差し出した彼女。

ろくは受け取った瞬間、
その重みにびっくりした。
封筒の中をチラリと見ると
おびただしい一万円札が入ってる。

「いやいや、 
 初回は1万円ですよ。」と
ヒョイと一枚封筒から取り出そうとすると
彼女がろくの手を押さえ

「これはね、私の業。
 前の男にもらった手切金。 
 こんなものがあるから
 私は幸せへと進めないの。
 だから、ろくさん。
 あなたへのチップなのよ。」
そう言われ、
ろくはお金を受け取った。

「私たち鑑定士は
 自分の言葉に責任を持ちます。 
 占いではなく 鑑定をするからです。
 ウラがない。理由がない。
 無責任な占いはしません。
 理由がある鑑定をしますから。
 それに対して 評価くださることを
 心から感謝します。」と
封筒を胸にしまった。

「次に私があなたに会う時には
 子供の名前でも
 鑑定してもらおうかな。」
と、彼女が言うと

「えぇ!とびっきりいい名前を
 考えましょうね。」と
ろくが笑って伝えました。

「じゃあいくわ。
 ありがとう。 
 なにか心が晴れやかだわ。」

「ありがとうございました。 
 あなたの未来も晴れ渡りますように。」
と、ろくが火打ち石をカチカチと
彼女にならした。

「あら、厄除け?
 嬉しい。ありがとう。」

「チップいただいたお礼です。」

彼女はその言葉を
大事に受け止め
帰っていった。

ろくはタバコをくわえ
彼女を見送った。

そして、愛猫のミャーに声をかけ
帰り支度をして
ふらふらと歩き出す。

商店街を抜け
川沿いを過ぎと
千代神社がある。

ふらりと神社に入り
賽銭箱に
白い封筒をそっと置くろく。

にゃーとミャーが鳴く。
ろくはミャーに一言。
「あげまんの運は
 彼女がいなくなると
 消えてしまいますからねー。
 彼女の業は神様に返しましょう。」
振り返り 神社を出たところで
タバコに火をつける。

ろくが吐いた
タバコの煙が
光なき夜の闇へ
吸い込まれていく。

おしまい。

ワンポイント手相

感情線が二又や三又に分かれていると
あげまん線!
パートナーの運気を上げる女性。
あなたはあげまん女ですか?

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