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KMM-001 「美ー子ちゃんの今週の一枚」について

ことさら出版のサイトでは、いくつかの連載をやっています。

その中の一つが、漫画家の服部昇大さんによる「美ー子ちゃんの今週の一枚」です。服部先生は、漫画家デビューを果たした受賞作からしてグラフィティがテーマというヒップホップ好きで、中でも日本語ラップに対する造詣の深さは知る人ぞ知る存在でありました。

しかし、デビュー作の読切を読んでいる読者など、そうそういるものではありませんし、初連載作は少女漫画風魔法料理ギャグ『魔法の料理 かおすキッチン』です。では、なぜ服部先生がガチのB-BOYであると知っている人がいたのかと言えば、Twitterなどの隆盛を待たずして、ブログなど、インターネットで意欲的に発信されていたこと、そして、ミュージックフリーペーパー『UNGA!』で「あたらしい日本語ラップ」というレビューコラムを連載されていたことが挙げられるでしょう(ちなみに私自身は、『かおすキッチン』を読んでいて、その後「こんなにヒップホップが好きな方なんだ」とネット上で気づく、といった順番だったはず)。

そこら辺の流れを踏まえている人にとっては、服部先生が「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」をTwitterで発表したとき、驚きはしても、腑に落ちるものがあったに違いありません。笑いを生む能力があり、日本語ラップを語る知識があり、少女漫画風の絵が描ける。それにしても、「日ペンの美子ちゃん」が元ネタというチョイスには度肝を抜かれましたが…。

日ペンの美子ちゃんを知っている漫画好きの方からすると、二次創作的な文脈で自然に受け入れられたのかな、と思うのですが、おそらく服部先生にとっては「サンプリング」であったはず。ヒップホップになくてはならない、音楽面のみならず文化・思想的な柱でもあるサンプリング。画風もハマっているうえに、名前に「B」と読める文字まで含まれる日ペンの美子ちゃん。さらに、画像一枚で完結するSNSにピッタリの9コマ漫画というフォーマット…。このネタに気づいた以上、やるしかねえ、「世界中のビートとメロディを/片っ端から盗むしかねえ(RHYMESTER「ダーディーサイエンス」)」といった感覚であったのでは、と推測します。

ただ、しつこいようですが、これは本当に「大ネタ」です。たとえば丸大食品が、スチャダラパーの大クラシック「サマージャム'95」をサンプリングして、別所哲也にラップさせる「サマーハム'19」というCM曲をお中元シーズンにぶつけてくるとか、もうそれくらいの「やりよったな!」感が個人的にはありました。その後、服部先生は本家日ペンの美子ちゃんの六代目漫画家に就任することになるわけですが、最初学文社さんから連絡が来たとき、「訴えられるのでは」と思ったとインタビューで語っていたように、ご本人としても勇気のいるチャレンジであったと思います。仮に、最初は軽い気持ちであったとしても、美ー子ちゃんがバズって以降は、学文社さんに目をつけられる可能性への心配も、少しはあったんじゃ、ないかなあ…。

その後、美子ちゃんの六代目に就任し、現在も続いている人気連載『邦キチ!映子さん』も始まり、一旦お休みとなっていた美ー子ちゃんですが、美ー子ちゃんの単行本も宝島社から発売されており、区切りとしてはよいタイミングであったように思います。

では、そんな服部先生がなぜ美ー子ちゃんを再開されたのかと言えば、

https://www.pixiv.net/fanbox/creator/3778/post/260568

上の記事にあるように(無料記事です)、ヒプノシスマイクの人気などもあってか、グッズ展開されるなど、仕事としての引き合いが重なったことももちろんあるとは思うものの、やはりそれ以上に、記事中にある「使命感」が大きかったのでは、と感じています。と言うか、まさに私が「美ー子ちゃんの今週の一枚」第3回を更新していて、「確かに服部先生がやるべき仕事だ!」と痛感したのです。

第1回のMEN-GOOさんは、私はまったく知らず、アルバム名で検索したところ、「日本のヒップホップを買うならここ」というWE NODよりも波の上MUSICの通販ページが上に出てきたために、最初は沖縄のラッパーと勘違いし、MVを見て「めっちゃ東京!」と気づいたくらいであったのですが、第3回の徳利さんの「清澄白河」は、よく利用する駅でもあり、元々知っている曲でした。

自分の中では「あの徳利が清澄白河を!」とブチ上がりましたし、監修が仕込みiPhoneの森翔太さんというのも気になるし、「門前仲町(なかちょう)を『なかまち』って言ってるー」という地元民には良くも悪くもフックになる部分もあったりで、私の中ではかなりの有名曲、という位置づけでした。

ところが、更新作業のために久々にYouTubeを開くと、約3万回しか再生されていない。決して少なくはない回数ですが、自分の中のポジションとはズレがありました。luteさんの動画ですし、Twitterの埋め込み動画とか、別のメディアなどでもっと見られている可能性があり、YouTubeの再生数=リスナー数とは思いませんが、正直、少しショックでした。

そんなことがあって、ようやくこの段になって「ああ、本当に、服部先生が紹介しなきゃいけない盤、曲、アーティストは、まだまだたくさんあるんだな」と痛感し、その使命感に少し共鳴できたような気がしたのです。

まあ、「しなきゃいけない」ってことはないにせよ、「できればレコメンドして、知る人が増えたほうがいい」とは言えるはず。また、私が勝手に、大袈裟に言ってしまうなら、そうしたほうが、よりよい、よりおもしろい社会になるような。そしてそれは、ことさら出版のテーマにも直結すると感じています。

で、清澄白河ショックから、こんな話を長々と書いてしまいましたが、本題はこれからです。

元々、それぞれの連載についてnoteを書こうとは思っていたのですが、そこでは連載のきっかけだとかを書くつもりでありました。これから、その話題です。以降は地味&そこまで長くないと思いますが…。

私が最初に考えていたのは、服部先生によるテキスト連載でした。レビューコラム「あたらしい日本語ラップ」を連載していたミュージックフリーペーパー『UNGA!』が休刊してしまい、その続きをやっていただけないか、と思っていたのです。

美ー子ちゃんが最近発表されていないことは頭の隅にありましたが、正直言って、文章を下に見るつもりはないものの、漫画を描き下ろしてもらう労力というのはやはり相当なものがあります。その対価は、とてもではないが支払えないと思い、最初からありえないものと考えていました。

ところが、連載の打診をしたところ、先に触れたような仕事の件もあることから、美ー子ちゃんの連載を復活する予定で、それも一緒に載せていいと言っていただけたのです(ギャランティは完全にテキスト分のみの金額です。あるいは、それにしても安い、というくらい)。また、美ー子ちゃんの漫画を一緒に掲載することから、レビューも美ー子ちゃんがやる形になり、連載のタイトルも「美ー子ちゃんの今週の一枚」に決まりました。ちなみに、隔週更新なのは最初からです。

とはいえ、結果的にリニューアル連載のような形になりましたが、この連載は完全に「あたらしい日本語ラップ」あってのものです。継続連載を許可してくださったUNGA!編集部さんに心より感謝申し上げます。

私自身は、ヒップホップは好きだけれど、そこまで詳しくありませんし(それを言ったら、詳しいと言えるジャンルがそもそもありませんが)、自分自身が、毎回服部先生の原稿を楽しみにしています。そこで新たな発見ができることを喜んでいます。そして、見てくださっている方々にも、そんな発見や喜びがあればいいなと思っています。

先日、遠い街のCDを買ってくださった方が、MEN-GOO『Du-Rag』の現物の写真をアップされているツイートを拝見しました。正直、これは、服部先生のTwitterだけではなく(漫画は先生のTwitterでも見られます)、ことさら出版のサイトでレビューも見て買っていただけたのではないか、と思いました。勘違いの可能性はゼロではないものの、嬉しかったですね。

そうやって、お読みいただいた方におもしろがっていただきながら、取り上げられたアーティストにも、また服部先生にとっても、いいことがある連載であってほしいと思っております。正直、顔ではないので、そのために自分ができることが思い浮かばないのですが、もしもnoteきっかけで、たまたまこの投稿を見ているという方がいたら、ぜひ連載も見てやっていただければ幸いです。おもしろいですよ!

あと、もう一つだけ。

このヘッダー画像、「なんで美ー子ちゃんが麻雀牌を持ってるの?」って思った方、おられますでしょうか。言われるまで気づかなかった、そもそも麻雀牌って何、って方も多そうだけど。

これ、なぜかと言うと、元素材が、服部先生がV林田さんの同人誌『麻雀漫画研究』vol.19の表紙のために描き下ろしたイラストであるからです。連載前に、服部先生がバナーなどに使う素材候補として、いくつかのイラストを送ってくれた中にあって、ぜひ使いたいなと思いました。

多分作画はレイヤーを分けていて、牌を消すだけなら、お願いすればできたように思うのですが、「むしろ持っててほしい」「そんなよくわからない感じがいい」となんとなく思い、そのまま使ってしまいました。

コミティアなどのイベントに行く機会があったら、V林田さんにご挨拶して、使わせていただいている御礼とお詫びをお伝えせねば…とは思っております。と言うか、ことさら出版でコミティア出ようかな、と思っていたりもします。

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