穢流伝淋倶・外典「激闘!なあふ合戦!」

夢の微睡みから、覚醒へと意識が帰ってくる。
眼前へ、赤々と燃える祝福の篝火に焦点が合うと、こう思った。
ーーああ、また戻って来てしまった。
幾度、敗走を重ねただろう。
だが、今や確信があった。
宿将・煮痾々瘤(にあある)ーー
次こそは、その首級を上げるだろうという確信。
一つ目の階段を駆け上がり、左へ。
囚人の絶叫に呼応して、幻影の騎士たちが召喚される。
それらが現界する前に、二つ目の階段を走り抜けて、広場へ。
三つ目の階段から黄金の霧を抜けると、背後の気配は消え去った。
眼前に待ち構えるのは、宿将とその従者たち。
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前。 
九字を切り、分身の術で我が身を二つに分つ。 
熟練の技によるそれは写し身と呼ばれ、殆ど術者当人と変わらぬ技量を持つ。 
何故か、今日に限って動きが鈍い。 
常ならば、見逃さなかった違和感だろう。
しかし、久方ぶりの死闘に身を浸せる喜びと、己が奥義への強い信頼が、それを打ち消した。 
霜踏みーー 
穢流伝(えるでん)流、秘奥義の名前である。 
鍛え抜かれた右足の踏み込みから、扇状に絶対零度の霜花が咲く。
その速度と範囲には、ばっくすてっぽ、さいどすてっぽ、いずれも間に合わない。
があどを、固めるしかないのだ。
白い花に触れた瞬間は、殆ど何も感じない。
易しと侮り、距離を詰めようと、があどを解く。 
すると蛟の如く、全身を霜が咬むのである。
絶命しなかった者には、霜の第二波が続け様に襲い来る。
それを逃れても、霜の第三波。 
死の波状攻撃。 
そう、必殺の戦技だ。
褪せ人は大きく右へと迂回しながら、宿将が引き連れる従者たちを巧みに誘い出す。
二人の動線が、縦に重なったところをーー
霜踏み。
霜踏み。
霜踏み。
それで、終わるはずだった。
だが、霜に全身を咬まれたはずの従者たちは、微かによろめいただけで、距離を詰めてくる。
何が、起こっている。 
何かが、あったのだ。 
そう言えば、すちいむの起動時間が、妙に長かった。 
まさか、あっぷでえと? 
しかし、褪せ人の思考は速い。 
秘奥義なあふと見るや、たちまち戦術を切り替えた。 
こんま一秒を待たず宿将へと標的を変え、写し身と挟撃になる位置へろうりんぐする。
一回転。
二回転。 
三回転。
写し身の緩慢な一撃は、掠り傷すら負わせない。
だが、宿将のたあげっとが移り、背中を見せる。 
褪せ人は、ばねの如く跳ね起きると、上段の構えから大地と水平に太刀を寝かせた。 
これぞ穢流伝流、秘中の秘。 
夜と炎の構え。
しゅう。 
裂帛の呼気と共に突き出された太刀は、極太の青いれえざあびいむを纏う。
確死の槍が、宿将の背中から鳩尾へと、突き抜けた。 
原型を、失ったか。
それとも、蒸発したか。 
知らず、唇に昏い微笑が張り付く。 
勝利を確信した褪せ人の視界に映ったのはーー 
無傷の、背中だった。
今度は、褪せ人が宿将と従者たちに、挟撃される番だった。
疑念。
混乱。
惑乱。
主人の危機にさえ、写し身の動きは鈍い。
けええっ。
霜を踏もうとしてーー
斬られる。
かああっ。
れえざあびいむを放とうとしてーー
斬られる。
なぜなぜなぜなぜ。 
どうしてどうして。 
堪らず、ろうりんぐで逃れようとした先に、謀ったように宿将の槍が、突き出される。 
深々と胸板を貫かれ、褪せ人は絶命した。
その遺骸が、黄金の霧となって消滅してゆくのを、写し身は、白痴の眼差しで見つめていた。 

YOU DIED


「悲しみ、おぉ悲しみ」 

戦技「霜踏み」の威力とモーション性能を下方修正
戦技「夜と炎の剣」の威力を下方修正
アイテム「写し身の雫の遺灰」で召喚する霊体の攻撃力を下方修正、行動パターンを調整

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?