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「第六十二回定期演奏会 森の会」

「森の会」は、東京藝術大学音楽部邦楽科の箏曲生田流専攻と現代箏曲(生田流)専攻卒業生による演奏会です。
ようやく、拝聴する機会に恵まれました。
いずれの曲も素晴らしく、幕が下りてしまうのが、とてもとても名残惜しい演奏ばかりでした。
 
「昭和松竹梅」
大変おめでたい歌詞にふさわしい、華やかで壮大な曲です。
1曲目恒例の、新卒業生による演奏。
苦楽をともに過ごしてきた同志の連帯感、一体感がひしひしと伝わってきました。
歌詞の最後
「倶(とも)によ重ねむ これの盃(さかずき)
慶祝(よろこび)に同胞(かたはら)は 酔ふ
さあれ なべて 虔(つつま)しきにぞ
心在るは 佳し 心在るは 佳し」
大曲をみんなで演奏しきって、まさに、奏者皆さまの、今この瞬間のお気持ちのようだなあと、なんだかとても嬉しくなる曲でした。
 
「淡彩ファンタジィ」
箏と同数の十七絃箏。女性だけの声。
それらが寄せては返す波のように、時にはうねるように、時にはきらめくように、響き渡ります。
聴いたことのない美しすぎる音の重なりの波に飲み込まれて、思わず視界が滲みました。
 
それぞれがプロとして、ソロでもご活躍中の奏者の方々。
楽譜上の和音としての重なりの美しさはもちろんのこと。
さらに、合奏ではあるけれど、12人のソリスト、ひとり一人が、独立して曲を演奏している、その個性の重なりにも鳥肌が立ちました。
この12人だからこそ出せる音。
この演奏を聴けて、本当に良かったです。
 
「悠遠」
こちらは「声」が、一段と印象的な曲でした。
謡われるのは、良寛の和歌。
元は声のパートは男性3名だったとのことですが、今回は女性が3名加わっての演奏です。
邦楽の自然な発声はまるで、良寛和尚の心のつぶやきが、和尚の見ている景色と共に立ち上るようです。
そこに尺八、箏、十七絃箏と様々な打楽器が入り、不思議な空気感が生まれます。
今、ここではない、どこか懐かしい、柔らかな空間に身を置いているかのようでした。
すべての音が止まり、ようやく今ここに帰ってきました。
 
「根曳きの松」
古典の大曲。
ですが、「古典」ではなく、「今」の「今回しか聴けない」演奏でした。
「古典の大曲」の持つ力。
一流の奏者の持つ力。
それが合わさった、まさに至極の一曲。
客席全体が前のめりになるような圧力。そして音が止まった後の拍手のすごさ。
会場全体に幸福感が満ち溢れる。そんな感じを味わうことができました。
 
「石橋」
こちらも大曲。
箏3面に三味線9丁で、最後を飾るにふさわしい、とてもゴージャスな演奏でした。
「牡丹に戯れ獅子の曲」らしく、それぞれのパートが戯れるように絡み合います。
見所聴きどころが満載で、うかうかしているヒマはありません。
気分も盛り上がり、大興奮のうちに幕が下りました。
 
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。

*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。

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会場 浅草公会堂
日時 2022年6月10日(金) 18:30
プログラム・演奏
 
昭和松竹梅 宮城道雄作曲 大野恵造作詞
 第一箏 細川喬弘 清原晏 皆川みゆき 三谷夏香 山内彩
 第二箏 城戸さくら 宇山葵 岡村秀太郎 長谷由香
 尺八 青木滉一郎
淡彩ファンタジィ/#春霞#たなびく#Sakura… for Koto Ensemble 冷水乃栄流作曲
 group1 koto1 吉永真奈 山形光 柿原千紘
     bass1 新井智恵 中嶋ひかる 木内麻由
 group2 koto2 吉川あいみ 藤重奈那子 山脇貴久恵
     bass2 鈴木麻衣 脇坂明日香 森梓紗
悠遠 -鳥によせて- 良寛和歌集より 北爪道夫作曲
 声1 杵屋巳三郎 石田真奈美  箏 遠藤千晶
 声2 杵屋佐喜 日原暢子    十七絃 合田真貴子
 声3 澤村祐司 青木礼子    琵琶 坂田美子
 尺八 小湊昭尚         打物 神田佳子
根曳の松 三橋勾当作曲 松本一翁作詞
 箏 山登松和 三味線 岡村慎太郎 尺八 藤原道山
石橋 芳沢金七 若村藤四郎作曲 瀬川路考作詞
 箏 中井智弥 村澤丈児 久保浩助
 三絃替手 芦垣美穂 梅辻理恵 松坂典子
 三絃本手 松井美千子 轟木美穂 友澤優美
      早川智子 片岡由紀 福田恭子
 

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