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「木村麻耶 箏リサイタル ~音楽でシエスタ~」

西国分寺で古民家を再生した建物で1983年からクラシックのハウスコンサートを開催されている「りとるぷれいミュージック」さま。
今回登場されたのが木村麻耶さんです。

いつも思うのは、お箏はどこで演奏されるかによって、音が大きく変わるということ。
桐の木でできたお箏は、木造の建物の中で演奏されると、本当に柔らかい「お箏らしい」音になるとしみじみ感じます。
ホールで聴くことが多いですが、そんな建物での演奏と聞くと、思わず足を運んでしまいます。

会場のお家は、築300年の古民家を解体し、現在の土地でコンサートができるようにと再生されたとのこと。
大きな木戸をくぐると、木のぬくもりが暖かい玄関。
靴を脱いでお家の中に入ると立派な梁に漆喰の壁のサロンスペース。
床は板張りですが、冬には畳敷きにすることもあるそうです。

演奏スペースには十三絃箏と二十五絃箏
至近距離で、もちろん生音。
かすかな絃の振動も余すところなく、会場に優しく響き渡ります。

プログラムは
乱(みだれ)
津軽
Careless Grace
琵琶行

オープニングの「乱」は八橋検校作曲の十三絃の古典です。
なんて美しい音。美しい曲。
至福の時間の始まりです。

「津軽」は野坂惠子(操壽)さん作曲の二十五絃箏
じょんがら節のフレーズが登場する力強い曲ではあります。
吹雪の激しさや、そこに生きる人々のたくましさがひしひしと伝わってきます。
しかし麻耶さんの手に掛かると、それだけではないのです。
音が吸い込まれてしまう無音の雪国の空気や、ダイヤモンドダストの輝くきらめきが立ち上ります。
かすかに聞こえる空調のゴーという音までもが、曲の一部となって、いつしか冬の津軽平野にたたずむ自分がいるのです。

Careless Grace(飾らない気品)
十三絃の麻耶さんオリジナル作品
タイトルは、この曲を聴いた方が自然の美しさを感じたとのことで、「自然」は飾らなくても、そこにあるだけで美しいというところから「飾らない気品」と付けられたとのこと。
とても美しく心地よい曲です。
木々に囲まれた山小屋で、雲の動きや揺れ動く葉を眺めながら、風を感じ鳥の声に耳を傾けているひととき、そんな時間に感じました。
「命が生まれ、周りからの刺激を受け、時に迷い苦悩していくが、やがて一人で自立して歩んでいく」様を描いたとのことです。
麻耶さんの、これまでご自身を取り囲んできたすべてのものに対する感謝の思いがあふれている曲なのかなあと思いました。
とても暖かい気持ちになり、ずっと聴いていたい曲でした。

そして、琵琶行
昨年秋から4回目の琵琶行です。
弾く人によっても、その時の自分によっても、毎回別の曲に聞こえる不思議な曲です。
曲の元となったのは白居易の漢詩で、左遷された白居易が、不遇の身の上となった琵琶の名手に出会い、その境遇に共感し落涙した、というもの。
今回は、自分の意思や努力では抗えない境遇の辛さが身にしみました。
ウクライナ、ガザ、能登半島。
ニュースにならなくても、目の前に見えなくても、きっと周りにそんな人がたくさんいる。
見えないモノは存在しないモノ、ではなく、存在しているモノにきちんと目を向けよう。

この空間で、この音楽を聴ける自分の境遇
音楽の力
素晴らしい奏者の方の音に出会えたこと
すべてが本当にありがたいことです。
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
 
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
 
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会場 りとるぷれいミュージック
日時 2024年6月2日(日) 14:00
箏、二十五絃箏 木村麻耶

プログラム
乱(みだれ)/八橋検校作曲
津軽/野坂惠子作曲(1986)
Careless Grace/木村麻耶作曲(2024)
琵琶行ー白居易ノ興ニ效/伊福部昭作曲(1999)

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