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「新宮順子演奏会 いにしへをたづねて-絵巻-」

お箏といえば、お正月に流れる「春の海」。
皆さまご存じのこの曲を作曲されたのが、宮城道雄さんです。
この宮城道雄さんの教えを、守り伝承されている新宮順子さんの演奏会。
目で見ても耳で聴いても大変美しい「絵巻」そのものでした。
 
越天楽変奏曲
昭和3年、昭和天皇即位大典の奉祝曲として作曲された独奏箏とオーケストラによる協奏曲。
今回は宮城道雄さん本人が、邦楽器の合奏曲として編曲したバージョンとのことです。
箏15面、十七絃3面、尺八4管に、大胡弓、鞨鼓、鉦鼓、楽太鼓、笙という大合奏。
雅楽の越天楽をモチーフに、奏者の皆さまも黒い着物です。
格調高く厳かな雰囲気の中にも、おめでたい温かな空気が流れます。
幕開けにふさわしい演奏に、この後続く曲が一層楽しみになりました。
 
菊の露
一転して。
銀の屏風に緋毛氈。両側にはぼんぼりが灯ります。
演奏は、新宮さんの三絃と梅辻さんの胡弓のみ。
先ほどのゴージャスな雰囲気とは打って変わり、会場内は一気に秋の気配になります。
遠くに鐘の音が響く秋の夕暮れ、薄や小菊をゆらす風さえ、うらさみしく感じます。
今にも虫の音が聞こえてきそうな情景に、自分が客席に座っていることさえ忘れてしまいました。
 
七小町
小野小町の波瀾万丈の生涯が歌われる曲です。
上手の金屏風の前に、松下さんと永池さんの三絃2丁と青木さんの尺八1管。
下手の美しい几帳の前には、小野小町本人が座っているかのように、新宮さんの箏1面。
美しくも儚い人生が、しみじみと胸に迫ります。
 
大和の春
皇紀2600年(昭和15年)の式典に際し、国からの委嘱で宮城道雄さんが作曲した曲です。
「神武天皇からはじまり大和朝廷が平和に統治されるまでの時代絵巻」とのこと。
幕が開いた瞬間、立体的にずらりと並ぶ19面ものお箏と、美しくきらびやかなお着物が目に飛び込んできました。
音が鳴る前に、すでに雅やかな世界へ引き込まれ、おめでたい華やかな気分になります。
お箏の大合奏は、女声のえもいわれぬハーモニーに包まれ、合間に新宮さんのソロが語り部のようにお話しを進めます。
舞台奥に控える胡弓、笙、尺八、打物によって、華やかさの中に、格調高さが加わります。
まさに、「絵巻物」を体感しているかのようでした。
 
4曲、休憩無しで演奏されました。
舞台転換の合間には、薦田さんによる解説があり、曲への理解を深めることが出来ました。
音楽だけでなく、見た目も、プログラムの流れも、細部にわたって丁寧に心配りがなされ、極上のおもてなしをしていただいたような気がしました。
 
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
 
*大変失礼を重々承知しておりますが、「客席からの眺め」では皆さま「さん」付けで表記させていただいております。何卒ご了承くださいませ。
 
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。

 
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会場 国立劇場小劇場
日時 2022年10月15日(土) 15:00
プログラム
越天楽変奏曲
 宮城道雄作曲(1928年原曲作曲)
 近衛秀麿・近衛直麿編曲
菊の露
 広橋勾当作曲(18世紀中頃)
 ふくしん作詞
七小町
 光崎検校作曲(19世紀前半)
 八重崎検校箏手付(19世紀前半)
 船坂三枝作詞
大和の春
 宮城道雄作曲(1940年)
 佐佐木信綱作詞
 
演奏
新宮順子
青木鈴慕
小池典子 梅辻理恵 久松彩子 遠藤千晶 山本修也 山本啓代
谷井歳嗣
望月太左衛 安倍真結
安島瑶山 菊地河山
須藤幸子 磯部香苗 林麻里子 細川英子 吉岡景子 戸塚朋華 寺井結子 小野桃佳
小吹優盟 今田瑛盟
松下陽子 永池あかり 氷室美香 深澤彌生 金澤昌子 篠崎紫 下川知子
 
おはなし
薦田治子

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