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「ESSAYを書こうと試みる」は「頭痛が痛い」「日本に来日」みたいなものか?

前回投稿で「英語tryは仏語trierが語源だが、逆にtryの各種用法を仏訳しようと思ったらtrierにはしない」というお話をしました。

では具体的にどうするのかをかいつまんでご紹介。

そのまんま、という感じの動詞にするパターン

裁判関係ならjugerジュジェを使いますが、見た目からもお判りのように英語judgeと同源です。

「The four men【were tried】for robbery.
Les quatre hommes【ont été jugés】pour vol.
その4人は強盗罪で裁かれた」

試食/試飲の話ではgoûterグテという動詞を使います。これは日本のレストラン「ガスト」と語源的につながりのある言葉です。

「「ガスト」の店名は、スペイン語・イタリア語で「味」を意味する"gusto"(グスト)を英語読みしたものである。」
ウィキペディア

例えばこんな感じで使います。

「My husband《wouln't》【try】my nikujaga.
Mon mari《n'a pas voulu》【goûter】à mon nikujaga.
夫は私の作った肉じゃがをどうしても味見しようとしなかった」

同じく、試食/試飲で使えるのがessayerエセイエという動詞です。

「【try】a Chilean wine
【essayer】un vin chilien
チリ産の葡萄酒(の1種類)を試飲する」

このessayerが、tryの仏訳で多くの場合に使える言葉です。

essayer

「【try】new teaching methods
【essayer】de nouvelles méthodes d’enseignement
新たな教授法を試す」

「try to 動詞」は「essayer de 動詞」となります。

「They 【tried】《to persuade the footballer to sign the contract》.
Ils 【ont essayé】《de convaincre le footballeur de signer le contrat》.
彼らはそのサッカー選手を説得して契約書に署名させようと試みた」

何かを探しに、店に行ってみることもessayerです。

「Have you【tried】the local bookstores?
Est-ce que tu【as essayé】les librairies du coin ?
近所の書店で探してみたかい?」

名詞はessai

「エセ」と読むこの単語は英語tryの名詞用法と似ていて、「試み」や、性能などをはかる「試験」といった意味で使われます。

「faire plusieurs essais de conciliation
何度か和解を試みる.
pilote d'essai
テストパイロット.」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

そして、ラグビーの「トライ」もこれです。

スポーツの得点シーンをまとめた動画がよくありますが、フランス語でのラグビー「トライ集」も投稿されていますので一例をご覧ください。

『TOURNOI 2023 - LES 21 ESSAIS DU XV DE FRANCE』
https://www.youtube.com/watch?v=QvaYN-SHUEs

動画の題名にもessaiが入っていますし、トライが決まると実況の人が「エセ」と言っています。

尚、「試み」という一般的な使い方では別の名詞tentativeトンタティーヴもあり、これは英語のattempt(こちらも「試み」)と語源的つながりのある言葉です。

そして「エッセー」

essaiというつづりを見ると、「エッセー、随筆」を思い浮かべられると思います。

日本で言えば戦国時代後期くらいの人、フランスのMichel de Montaigneミシェル・ド・モンテーニュ。

「特定の話題に関する主観的な短い文章の形式を発明し(中略)人間のあらゆる営為を断続的な文章で省察することによりモンテーニュは人間そのものを率直に記述しようとし、モラリスト文学の伝統を開いた。」
ウィキペディア

そういう新たな「試み」という意味でつけられた題名が『Les Essais』(定冠詞+複数形)です。(邦題は『エセー』や『随想録』とされるようです)

そのモンテーニュから影響を受け、イギリスではかの有名なFrancis Baconフランシス・ベイカンも『Essays』という作品を出しました。

(こちらは『随筆集』という日本語題名にするのが定番のようです)

「モンテーニュの感性的、省察的、告白的な『随想録』に比べ、ベーコンの『随筆集』は客観的、知性的、教訓的であり、イギリス的エッセイの父といえる。』
(日本大百科全書)

フランス語essaiと1文字違いの英語essayを英和辞典で引くと「随筆」「小論」の他に、元々の意味である「試み」もちゃんと載っています。

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assay

essayの先頭にあるeをaと取り替えてassayにしてみましょう。これを辞書で引くと語源は

「essay の異形」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

であると載っています。つまりこれも「試す」から出てきた言葉です。

狭い意味では、鉱物に含まれている金属を「分析試験する」ことを、より一般的には「分析する」「判定する」として使われる言葉です。

assez

次に、assayの後ろのayをezに取り替えます。するとフランス語assezアセが出来上がりますが、これもessayer/essaiと語源がつながっています。

これには英語でいうenoughやquiteの意味があります。

副詞として「十分に」の場合は単独で動詞・形容詞・副詞を修飾する一方、名詞を修飾する形容詞としてのenough「十分な」に対応させる場合には「assez de」の形で用います。

「I don’t have 《enough time》.
Je n’ai pas 《assez de temps》.
私には十分な時間がありません」

我慢がならないとき、日本語では「もう、たくさんだ!」と言いますが、英語「Enough!」も仏語「Assez!」も同様に使えます。

assai

assezのezをaiに取り替えるとイタリア語assaiアッサイになります。もちろんassezと語源を同じくするものであり、veryやmuchやenoughを意味します。

音楽の演奏記号の中には速度を表すものが色々あり、allegroアッレーグロなどが有名です。

英語のcheerfulに相当する、「快活な、陽気な」などの意味を持つ形容詞から来た名詞であり、「快速に、陽気に」演奏せよという作曲者からの指示です。

これを「very アッレーグロ」としたければallegro assaiにすればいいわけです。

モーツァルトの『交響曲第40番ト短調』は出だしを聞けば、「ああこの曲知っている」と思う方が多いと思います。

この曲の第4楽章がallegro assaiになっています。

『Mozart - Symphony No. 40 in G minor, K. 550 (Julien Salemkour & Staatskapelle Berlin)』
https://www.youtube.com/watch?v=wqkXqpQMk2k

おまけ

allegroの語源をたどるとラテン語のalacerに到着するのですが、そのalacerを源としてそこから枝分かれしていった数々の「子孫」の中にはスペイン語およびポルトガル語のalegreがいます。

ブラジルのサッカー・チーム「Grêmioグレミウ」や「Internacionalインテルナシオナウ」が本拠地とする町Porto Alegreポルトゥ・アレグリはそういうわけで「陽気な港」を意味します。

スペイン語の方のalegreに、名詞を作る接尾辞-íaがついてできた言葉alegríaアレグリア(「リ」を強く読んでください)はjoyやhappinessに相当る言葉であり、サーカス団《シルク・ドゥ・ソレイユ》の演目の1つで、現在東京で公演が行われている『Alegría』とはそういう意味です。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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