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FIRMとエンタメ

先ごろ行われた、衆参補選と統一地方選。

当選した候補者の選挙事務所ではだるまにもう一方の黒目が書き入れられ、一方落選者のだるまは元の状態のまま放置されるという光景が全国で見られたことでしょう。

縁起物とされる置物「だるま」。

子供の遊びの中にも登場し、「だるまさんが転んだ」とか、「だるまさん だるまさん にらめっこしましょ」とか、「だるま落とし」などで親しみのある存在です。

この置物はご存じの通り、実在したインドの僧「菩提達磨(ぼだいだるま)」に因(ちな)んだものです。

これはサンスクリット語を漢字で書き表したものですが、英語で書くとBodhidharmaとなります。

後半部分の要素「dharma」が英和辞典に載っています。

「[名]《ヒンズー教・仏教》
1 法,(宇宙・人間などの)本体,本性
2 教法[戒律](に従うこと)
3 正しい行い;徳
4 仏教;仏陀ぶっだの教え」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

この単語を名前として持つ主人公を描いたアメリカのドラマ『Dharma & Greg』というのが今から20年以上前にありました。(日本でも放送されました)

この主人公はヒッピーの親に育てられたという設定なのですが、ヒッピーにはインド文化に傾倒する人が多くいたため、「いかにもヒッピーが付けそうな名前」と制作側が意図したのかもしれません。

ところで、サンスクリット語と英語はともにインド・ヨーロッパ語族に属する「遠い親戚」であり、実はこのdharmaは英語のfirmと語源的につながりがあります。

firmその1

ラテン語(こちらもインド・ヨーロッパ語族)の「堅固な」から来ている言葉であり、英語でもその意味があります。

「a firm substance
硬い物質.
firm flesh [muscles]
堅く引き締まった肉[筋肉].」
(研究社新英和中辞典)

また、物理的にあるいは心理的に「ぐらつかない」ことも言います。

「walk with a firm step
しっかりした足どりで歩く.
be firm with one's students
生徒に対して断固とした態度をとる.」(同)

これには副詞用法もあり、次の例文ではfirmが動詞standを修飾しています。

「Jones is urging Christians to stand firm against abortion.
(ジョーンズはキリスト教徒達に、人工妊娠中絶に断固反対するように促している)」
(ロングマン現代英英辞典)

鉛筆の話

鉛筆の固さ(あるいは、濃さ)はたいていBとかHとかいう記号を使って表記します。HBとか2Bが馴染み深いですね。。Hは「hardness固さ」であり、Bは「blackness黒さ」です。

例外的にFという固さがあり、HBとHの中間です。

ウィキペディア英語版では、このFは「普通、fineness細さを意味すると受け取られる」としつつ、「日本においてはfirmとしても知られている」と説明しています。

「ファームウェア」は「農作業用の服」ではありません

また、softwareとhardwareの間ということなのか、firmwareというIT関連用語があります。

「ハードウエアの基本的な制御をするために、読み出し専用記憶装置などに組み込んだソフトウエア。パソコンや周辺機器、デジタルカメラ、携帯電話、家電製品、自動車などに搭載されている。」
(小学館デジタル大辞泉)

より詳しくは、例えば以下のサイトなど、きちんとした智識をお持ちの方々が丁寧に説明されている文章にお任せしたいと思います。

ファームウェアって?ソフトウェア・OSとの違いを解説!

firmその2

firmその1の「堅固」に関連し、「(署名して)確認する」というラテン語の動詞firmareが元となり、イタリア語の動詞「firmareフィルマーレ:署名する」、名詞「firmaフィルマ:署名」ができました。

それは商業上の署名を表していたので「商店」「会社」などへと意味が広がり、英和辞典には別立てで載っています。

ロングマンの辞書によるとこちらのfirmは

「a company, especially one that provides a service rather than producing goods
(会社、特に、物を生産するのではなくてサービスを提供する会社)」

という意味合いの言葉です。

「The eight-volume guide contains entries for 700,000 lawyers and 44,000 law firms.
(8巻にわたるこの便覧には、法律家70万人と法律事務所4万4千社が登録されている)
The auditing services market is dominated by a small number of large accounting firms.
(監査サービス市場を支配しているのは、少数の大規模会計事務所だ)」
(ロングマンビジネス辞典)

法律事務所や会計事務所などは正にサービスを提供する会社と言えます。

この単語を題名にしたトム・クルーズ主演のアメリカ映画『The Firm』が今から30年前に公開されましたが、邦題には説明の言葉が追加されて『ザ・ファーム 法律事務所』となりました。

affirm

firmareの前にtoに当たる接頭辞ad-が付けられたaffirmareというラテン語に由来するのが英語のaffirmです。
(ad-のdは、firmareのfの影響を受けて同化し、af-になりました)

「断言する」「肯定する」といった意味合いです。

「Mr. White affirmed that their report was true.
ホワイト氏は彼らの報告は真実だと断言した」

上位の裁判所が下位の裁判所の出した原判決を「確認する」「維持する」ことにも使います。

「The Tokyo High Court affirmed the original decision by the Chiba District Court.
東京高等裁判所は千葉地方裁判所の原判決を支持した」

形容詞形

形容詞形affirmativeは「断定的な」「肯定的な」「支持的な」となります。

航空や軍事など、無線でやり取りする分野では聞き取りやすいような言葉遣いを工夫していますが、「Yes.」「No.」のような短い、雑音に埋もれがちな言葉の代わりに「Affirmative.」「Negative.」と返事するそうです。

名詞形

名詞形affirmationがそのまま題名となった曲を、アメリカのギター奏者George Bensonジョージ・ベンスンが今から46年前に取り上げて有名にしました。

以下の動画はライブ演奏を収めたものです。もとより彼は誰もが認める名手(undisputed virtuoso)ですが、非常にキレのいい演奏を堪能できます。愛用の日本製ギターも良い音を出しています。

George Benson - Affirmation

confirm

同じく、ラテン語のfirmareに接頭辞が付いたものに由来するconfirm。

con-はこの場合は強調する働きを持っており、全体として「確固たるものにする」が原義です。

心を確固たるものにする、ということならば次のような使い方ができます。

「【confirm】《one's determination》
決意を固める.
His performance【confirmed】〔me〕《in my belief in him》.
彼の作業で彼に対する私の信頼が強まった.」
(研究社新英和中辞典、カッコ類は引用者が付けた)

《 》にした部分が「心」関連の言葉です。それは1例目では直接目的語、2例目では前置詞inの句となっているという違いがあります。2例目で直接目的語になるのはその「心」を持っている「人」です。

事実関係を確固たるものにする、つまり「確認する」「確証する」という場面にも用いることができます。

「The candidate's disclaimers confirm that we were right in our estimation.
その候補者の否認発言によって我々の評価が正しかったことが立証された.」(同)

他者が行った決定を確固たるものにする、というのが「承認する」です。

「The appointment of the Governor of the Bank of Japan was confirmed by the Diet.
日銀総裁の任命は国会で承認された.」

名詞形

名詞形confirmationがそのまま題名となった曲を、アメリカのサキソフォン奏者Charlie Parkerチャーリー・パーカーが今から78年前に作曲しました。

こちらも最高級の名手による演奏です。

Charlie Parker - Confirmation

reconfirm

さて、confirmに更に接頭辞が付いたreconfirmという単語があります。

「She carelessly forgot to reconfirm her air ticket.
彼女はうっかり航空券の予約再確認をし忘れた」

この言葉はかつては海外旅行をする際によく目にする、「面倒なイメージ」を持つ言葉でした。

「リコンファーム(英語: Reconfirmation)とは、予約の再確認のことである。(中略)
通常国際線旅客便の利用に当たって、途中降機(ストップオーバー・単純往復の場合も含む)が72時間以上に及ぶ場合、利用航空会社の営業所に氏名、搭乗日、便名を伝えて行う。場合によっては航空券番号や滞在地(ホテル名、住所)の電話番号等を伝える。」
ウィキペディア

面倒、というのがお判りいただけると思います。しかし、これをしないとキャンセルされてしまいかねませんでした。

現在では情報技術の進歩などによりおおよそ不要になったようです。トラベル・スタンダード・ジャパン社のサイトには、現在リコンファームが必要な航空会社としてイラン航空、エアインディア、エジプト航空、エチオピア航空の4社だけが載っています(日本発着では、ということだと思います)。

おまけ

最後に驚愕の事実をお伝えしなければなりません。

先程鉛筆の話をしましたが、pencilという単語は一見「ペン」に「cil」を付けて作ったように見えるものの、penとの語源的つながりは全く無いのです。

元々は「小さな尾」を意味するラテン語pēniculusが「(ほこりを払う)ブラシ」や「絵筆」を表していました。後に「鉛筆」が開発されてからはそれも同じ系統の言葉で呼ぶようになりました。

ではpenは?

「CMまたぎ」のようなことをして申し訳ありませんが、次回投稿に先送りします。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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