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HOTな話題、じゃなくてHOTが話題

先日、こんなニュースを目にしました。

「世界で最も暑い場所の一つとされるパキスタン中部ジャコババードで24日、最高気温50℃を観測しました。頻繁に停電が起きるため、住民はエアコンを使えず、熱中症の患者数は数百人に上るということです」
https://news.ntv.co.jp/category/international/0de65bfc616742f6a47a5ff566a343b7

似たような件を、英語メディアから引用するとこうです。

「Northern India, including capital Delhi, is reeling under a fierce heatwave with temperatures soaring above 45C over the weekend.(中略)
The searing heat comes as India is holding its general election, the results of which will be declared on 4 June.」
https://www.bbc.com/news/articles/c888e0730zpo

「首都デリーを含む北インドでは厳しい熱波のせいで眩暈(めまい)がするようであり、気温は週末にかけて上昇して摂氏45度を超えている。この焼け焦げるような暑さの中でインドは総選挙を行うことになっており、その結果は6月4日に発表される」

「heat wave熱波」や「heatstroke熱射病」など、heatと言えば主に夏に話題になる言葉だと思いますが、冬は冬でheat shockの危険性が叫ばれますよね。

「温度の急変で体がダメージを受けること。(中略)暖房の効いた部屋から寒い廊下に出たときなどに起こる。脈拍や血圧が上昇して、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす要因となりうる」
(小学館デジタル大辞泉)

今回はこれにちなんでheat、そしてもちろん、同源のhotについて見ていきましょう。

物理的な話

「あつさ/あつい」

漢字で書くなら、物については「熱さ」が、気温については「暑さ」が用いられます。

「Strike while the iron is hot.
《諺》 鉄はいうちに打て, 好機を逸するな」
(研究社新英和中辞典)

It's so [unbearably, stiflingly] hot in here.
ここはとても[耐えられないほど,むっとして]い」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

名詞heatではこんな感じです。

「the heat of the sun
太陽の
(an) intense heat

(研究社新英和中辞典)

カップ麺を作る時、スープが粉状なら先に入れてお湯を注ぎ、液体タイプなら後から入れます。

後者では「フタの上に液体スープの袋を置いて温めてください」といった指示があります。

袋の中のスープの素は脂が溶けたりして、カップの中に投入した時になじみやすくなりますが、これはもちろん、お湯の熱がスープの素に乗り移った結果です。

温度が高い方から低い方へ熱が移動する性質を利用してエアコンは働きます。

エアコンは室内機と室外機のコンビ、そしてその間をつなぐパイプで構成されていますが、そのパイプの中には冷媒(れいばい)と呼ばれる物質が封入されています。

カップに注ぐお湯は人間にとっては「熱い」ものであり、逆に冬場の外気は「寒い」ものです。

しかし人間基準で寒くても熱が存在することは確かなので、室外機を通る冷媒の方が外気より低温ならば、冷媒へと熱が移動します。

熱を得て気化した冷媒はパイプを伝って圧縮機compressorに送られます。

気体や液体は圧力が高くなると温度が上がる性質がありますから、compressされた冷媒は高温になり、室内機に入って室内の空気に熱を放出します。

熱の取れた冷媒は今度、膨張弁expansion valveと呼ばれる装置に入ります。

「膨張」は「圧縮」の反対なので、急激に圧力を下げる働きをする装置であり、その結果冷媒の温度が下がります。

冷たくなった冷媒は室外機で外気の熱を……といった循環が行われるわけです。

これが暖房のプロセスですが、反対に冷房するときは室内機と室外機の役割を逆転させ、室内の熱を外気に移送することになります。

水などを送るポンプpumpに準(なぞら)えて、熱を移動させるポンプということでヒート・ポンプheat pumpと呼ばれる仕組みです。

「ヒートポンプを動かすためにはコンプレッサーを動かすエネルギーが必要ですが、冷たい側から暖かい側へ移動する熱の量とコンプレッサーを動かすエネルギーから直接発生させる熱を比べると、前者の方が大きい」
TDKのサイトより)

ので、効率の良い冷暖房の仕組みです。

(リンクしてある同サイトで、図入りで解説されています)

さて、動詞用法のheatの例文です。

「The engine has started to heat up.
エンジンが(正常より)熱くなり始めた」
(研究社新英和中辞典)

「あたたかさ/あたたかい」

一方、heat/hotを表す漢字は「暖」や「温」になることもあります。

「enjoy the heat
かさを楽しむ
increase [lower] the heat
度を上げる[下げる]」
(研究社新英和中辞典)

動詞用法のheatの例です。

「The room was comfortably heated (up).
部屋は気持ちよくまっていた
heat up soup
スープをめる」(同)

heatに接頭辞を付けた言葉も時折耳にします。

「予」の意味の接頭辞pre-と、「再」のre-です。

「How long should you preheat the oven?
(どれくらいの時間、オーヴンを予熱すべきでしょうか)
Instead of waiting around and wondering if your oven is at temperature, remember that the magic number for preheat time is 20 minutes — that’s the ideal time to cover a vast variety of preheating needs.
(ぼんやり待って、オーヴンは温まったかなあと考えるのではなく、予熱時間の魔法の数字は20分であることを憶えておきましょう。20分というのが、予熱の多岐にわたる必要を満たす理想的な時間です)」
Bon Appétitというサイトより)

1つ目のpreheatは他動詞、2つ目は名詞、3つ目(ただしing形)は動名詞です。

「Make sure your leftovers are cooled quickly, refrigerated and eaten within a few days or frozen for up to several months. They should be reheated thoroughly — though not reheated or frozen more than once.
(必ず守るべきは、残り物の食べ物は素早く冷まして冷蔵庫に置いて数日以内に食べること、あるいは冷凍するのは最長数か月間とすることです。その残り物はすっかり再加熱すべきですが、しかしながら再加熱あるいは冷凍は1回にとどめなければなりません)」
Healthlineというサイトより)

食べ物だけでなく、飛行機のジェット・エンジンにもreheatが関係します。

「アフターバーナー (afterburner, A/B) は、ジェットエンジンの排気に対してもう一度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る装置である。(中略)
アフターバーナーという名称は、本来GE社によって商標登録されているため、同社のターボジェットエンジンに装備されている物のみを指し、MIL規格によると、この装置の用語としてはオーグメンター(augmentor, 推力増強装置)を用いるのが正しいとされる。
また、ロールス・ロイス社のジェットエンジンにおいてはリヒート(reheater, reheat jetpipe, 再燃焼装置)、プラット&ホイットニー社はオグメンタ(augmentor,(推力)増強装置)という言葉を用いている」
ウィキペディア

主に戦闘機用に使われる技術ですが、有名な旅客機Concorde(英語の発音としては「コンコード」)のエンジンにも採用されていました。

コンコルドのエンジンはロールス・ロイス系なので、この装置に対する名称はreheatということになります。

「The Rolls-Royce/Snecma Olympus 593 was an Anglo-French turbojet with reheat, which powered the supersonic airliner Concorde.
(ロールス・ロイス社とスネクマ社によるオリンパス593型は、再燃焼装置付きの英仏共同開発のターボジェットであり、超音速旅客機コンコルドの動力源であった)」
ウィキペディア

味覚の話

「辛(から)さ/辛い」を表す言葉としてもお馴染みですが、「海の水はカライ」のような塩による辛さではなく、唐辛子などの辛さに使われます。

それにしても「熱い」と「辛い」を同じ言葉で表すのは、日本語人としてはちょっと抵抗がありませんか。

「トウガラシの辛味は体をめ、発汗を促す。舌にはさ、時には痛さに似た刺激をもたらす」
ウィキペディア

まあ、そう言われると、同じ言葉を使うのを無下に却下できない気がします。

「This curry is too hot.
このカレーは辛すぎる」
(研究社新英和中辞典)

名詞heatも「焼けるような辛味」を意味します。

「Pungency (/ˈpʌndʒənsi/) refers to the taste of food commonly referred to as spiciness, hotness or heat, found in foods such as chili peppers.」
ウィキペディア

こちらの文では唐辛子系の「辛さ」を表す名詞としてpungency、spiciness、hotness、そしてheatが使われていることが判ります。

「pungencyという言葉は、一般的にspiciness、hotness、あるいはheatと呼ばれる、唐辛子などの食品に見られる味に言及するものである」

形容詞の方の類語としてはpungent、spicy、piquantピーカントなどがあります。

「興奮」など、抽象的な「あつさ」

「He debated with much heat.
彼は熱をこめて討論した」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「hot words
激しい言葉.
be hot with anger
腹を立ててかっかしている」(同)

形容詞heatedはよくdebateを修飾しているのを見かけます。

「President Donald Trump and former vice president Joe Biden faced off in a heated debate on September 29.(中略)
Each made a case for why voters should pick him in the 2020 presidential election.
(大統領ドナルド・トランプと前副大統領ジョウ・バイデンは9月29日、激論を行って対決した。2人はそれぞれ、有権者が西暦2020年の大統領選挙で自分を選ぶべきである理由に関して主張を行った)」
TIME for Kidsより)

hotと経済

商品などが「人気がある」ということでhot、「出たばかり」でhot、盗品が「盗まれたばかり」でhot、といった使い方があります。

「this year's hot toys
今年はやりのおもちゃ
a book hot off the press(es)
出たばかりの本
hot cars [merchandise, goods]
盗難車[盗品]」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

ちょっと意外なhotの用法

hotには「近い」「もう少しのところの」という意味もあります。

「You are getting hot.
(解答に)近づいています, もう少しです」
(研究社新英和中辞典)

これはcoldと対になっています。

「You're getting cold(er).
(解答・捜し物などから)(ますます)遠ざかっています」(同)

この意味のhotと、「on the heels踵(きびす)を接する⇒間を置かず」を組み合わせる表現がこちらです。

「The news came hot on the heels of another plane crash.
(そのニュースは、別の飛行機墜落事故のすぐ後に入ってきた)」
(ロングマン現代英英辞典)

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。


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