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SECONDは「2」とは限らない

セコンドってどんな人?

挌闘技の試合で選手に付き添う人である「セコンド」は英語で書けば「second」です。そう、あのsecondです。

これは普通は「セカンド」とカタカナ表記しますね。

そういう役割の人がなぜsecondと呼ばれるのでしょうか?別に「2番目に試合に出る人」じゃないんですから。

secondはラテン語で「従う、追う」という言葉に源があります。ということは、「従う人」という意味で「セコンド」と呼ばれることが判ります。

「追い風」

「追う」を使った日本語「追い風」は通常「a following [favorable] wind、a tailwind」(研究社 新和英中辞典)と辞書に載っています。

しかしsecondを使って、「a second wind」という言い方もしないわけではありません。

「After a stagnant period, Japan's robot industry is getting a second wind.
停滞していた日本のロボット産業に追い風が吹いている。」https://context.reverso.net/translation/english-japanese/second+wind

次の文言はブルームバーグ日本語版の記事見出しです。

「ブラジル大統領の任期後半に追い風-支持候補が上下両院の新議長に」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-03/QNX4GVDWLU6A01

議会両院とも議長選挙が行われた結果、現職大統領が支持した候補者たちが当選して、大統領は自身の政策を進めやすくなり、また、大統領を弾劾しようという勢力に対する抑止になる、ということのようです。

ここで使われている「追い風」はどんな英語を訳したものかを英語版ページで確認すると、「Bolsonaro Gains Second Wind as Allies Win in Brazil Congress」とあります。

(windまでが主節、接続詞であるas以下が従属節。「Bolsonaro」は大統領の名前、「allies」は「盟友、味方」の複数形、Congressは「議会」です)

「従う」をさらに

ラテン語の直系子孫である現代イタリア語では「secondo セコンド」が前置詞としても使われ、「~によれば、~の意見では」を意味します。「従う」系の意味合いがよくわかります。

「secondo lui」なら「彼によれば」ですし、「secondo me」なら「私に言わせれば」ということです。

英語secondには前置詞用法はありませんが、「従う」系の動詞用法があります。

「〈動議・決議に〉賛成する.
He seconded our motion.
彼は我々の動議に賛成した.」
「〈…を〉支持する,後援する,裏付けする 《★通例受身で用いる》.
He was seconded in his opinion by his friends.
彼の意見は友人の支持を得た.」
(研究社新英和中辞典)

secondが持つ様々な意味用法を、「2番目」を出発点として考えてしまうと「追い風」「賛成する」といったものとの繋がりがよく分からなくなりますが、あくまでも「従う、追う」を出発点としてそこから枝分かれしたものだと考えれば「2番目=1番目のものの後ろに従うもの」も含めて、頭の中できれいにまとまるのではないでしょうか。

「秒」がなぜsecondなのか?

秒も「2番目の」何かです。

「秒」より大きな「分」、つまりminuteはラテン語で「小さく分けた部分」が語源です。

1時間を60等分する「分」が「1番目の」分割であり、その1分をさらに60等分する「秒」は「2番目の」分割ということになります。

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ちなみに、「分」という漢字は「八」「刀」という部品で作られていますが、「八」が「分ける」という意味なので、合わせて「刀で分ける」という成り立ちを持っています。

一方「秒」は「禾」という部品が、稲や穀物のカテゴリーの字だということを表しています。「少」は「眇」のことで、「ビョウ」という音読みであると示すと同時に「目に小さく映る」という意味を持っています。

合わせて「稲の穂先」を言う文字であり、転じて「微細」「かすか」として使われるようになりました。
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本当に「第2の」と訳していいのか

これまで見てきましたように、「従う、追う」が出発点であり、「2番目の、第2の」はそこから枝分かれした訳語なので、なんでも「第2の」を使うのは考え物です。特にsecondの前に不定冠詞aがあるときは気を付けましょう。

「[普通は a ~]
もう一つの (another), また別の, そのほかの.
・a second time もう一度.
・a second helping (食事の)お代わり.
・a second Churchill チャーチルの再来(というべき(すぐれた)政治家).
・a second pair of socks. 靴下の替え.」
(研究社ルミナス英和辞典)

不定冠詞があるということは、「複数存在すると想定されるものの内、不特定の一つ」という意識ですから、helpingやChurchill(のような人)が3つ、4つでもおかしくない、という気持ちでsecondを使っています。

一方「第2の」という日本語を使うのは、例えば「成人の日は1月の第2月曜日だ」というように、「特定される2番目」であって「3」や「4」ではないはずです。

「特定される2番目」ならば「the second Monday of January」となって、定冠詞theの出番です。

また、「無冠詞+second+複数名詞」という例もあります。

『Never Gonna Let You Go』は西暦1982年/昭和57年に、ブラジルの音楽家Sérgio Mendesセルジオ・メンデス(セルジュ・メンヂス、の方が原語に近いカタカナだと思います)がカバーしてヒットした曲です。

「うまくいかなかったカップルが、やり直そうと互いに決意する」という内容の歌で、ある一節では男が女に対して「まだ愛情が残っているなら、話し合って解決しよう。Let's talk about second chances.」と語ります。

これなど、複数名詞なので「もう一つの」という訳語さえ使えず、「また別の」とか、あるいは「新たな」などとする必要があるのではないでしょうか。

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余談ですが、アメリカの音楽プロデューサー・教育者であるRick Beatoリック・ビアートが自身のYouTube動画でこの曲を「史上最も複雑なポップ・ソング」と位置付けていました。コード進行が普通でないうえに、非常に頻繁に転調するのがその理由です。

私も、この曲が発表されたときに友人と「ものすごく転調するよね」と話したことを覚えています。

興味のある方は以下の動画をご覧ください。画面下にコード・ネームが表示されているので、鍵盤楽器やギターが弾けるならば押さえてみて確認なさると面白いと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=ZnRxTW8GxT8
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お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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