CAPTAINにご用心
映画の興行成績は動員数とか収入とかで報道されます。公開から2か月ほどの『トップガン マーヴェリック』(英語の題名は『Top Gun: Maverick』)は今年日本で公開された作品の中で収入が1位(7月19日時点)であり、その金額も直近の土日(23,24日)を経た累計では96億9400万円だそうです。
動画サイトではこの映画の予告編を見ることが出来ますが、こういうセリフが出てきます。
「Good morning, aviators. This is your captain speaking.」
トム・クルーズ演じる海軍パイロット(aviator)が教官として若いパイロットたちに、特殊な任務に向けた厳しい訓練を施していくのですが、その初回の飛行訓練の冒頭でのことです。
「This is your captain speaking.」は普通、旅客機で乗客に向けたアナウンスの決まり文句であり、「こちら機長(captain)です。」を意味します。
しかしここではcaptainは別の意味でも使われています。映画の設定としてクルーズ演じる人物の階級は「大佐」であり、米海軍ではその階級をcaptainと呼ぶからです。ですから「こちら、諸君の大佐だ」とも言っているわけです。
機長さんなら乗客に対して「安全で快適な空の旅」を約束しますが、教官は訓練生に対して厳しい訓練を課すことになり、その「嵐」の前のちょっとしたジョークというわけです。
さて、captainという英単語に対応する日本語は多岐にわたりますが、大ざっぱに「役職」と「階級」という2つのカテゴリーで見ていきましょう。
「役職」であれば飛行機の「機長」、船の「船長」、軍艦の「艦長」、スポーツチームの「主将」などが主なところです。
また、「階級」としては海軍の「大佐」、海軍以外の「大尉」、警察の「警部」といった感じです。「大佐」と「大尉」では「偉さ」が全く違うのでお気を付けください。
なぜ役職と階級に分けたかというと、一般企業でも「部長級」の人が必ずしも「営業部長」などのポストに就いているわけではなく、「営業部長代理」だったりすることもありますよね。
「艦長」というポストに就いていない「大佐」も大勢おり(クルーズの役も艦長ではない)、逆に「艦長」だからといって「大佐」であるとも限らず、「中佐commander」が艦長をしている軍艦も多数あります。
そもそも、captainは語源的には「頭」に由来する言葉であり、日本語で「かしら」「あたま」が統率する人のことを言うのと同じ発想です。
captainと似た形のchieftainという単語もあります。
「1 指導者,かしら;首長,族長 2 ((古・詩))指揮官,隊長」(小学館 プログレッシブ英和中辞典)
chiefもやはり「頭」のことで、「editor in chief編集長」「chief of staff参謀長」「chief of state国家元首」といった言葉を辞書に見つけることが出来ます。もっとも「国家元首」は「head of state」という表現の方がなじみがありますが。
映画つながりで言うと、『ラ★バンバ』(原題:La Bamba)という作品がかつてありました。西暦1987年公開なので、トップガン1作目の翌年です。
既に故人となっていたアメリカ人歌手Ritchie Valensリッチー・ヴァレンスの生涯を描いた作品で、彼のヒット曲『La Bamba』をこの映画ではアメリカのバンドLos Lobosロス・ロボスがカバーし、こちらもヒットしました。
その歌詞の中にcaptainが登場します。ただし、この曲はスペイン語で歌われているので、英語captainと語源を同じくするスペイン語「capitánカピタン」ですが。
「Yo no soy marinero. Soy capitán.」
yoが英語のI、noがnot、soyがamだとお考え下さい。つまり「私はmarineroではない。私はcapitánだ。」と歌っているわけです。
ここではcapitánは「marinero船員/水兵」と対比させてありますので、「私は船員ではなく、(もっと偉い)船長だ」、あるいは「私は(将校ではない)水兵ではなく、(将校である)大佐だ」といった感じになるのでしょうか。
お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?