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NAMEの色々な意味と、NAMEの意味を含む色々な単語

まずはこちらの曲をお聴きください。

『Oesten : Doll's Dreaming and Awakening / エステン:人形の夢と目覚め』
https://www.youtube.com/watch?v=o5_6VNbhzQM

ドイツの音楽家Theodor Oestenテオドア・ウステンによるこの曲『Püppchens Träumen und Erwachen』は西暦1862年に発表されました。

(我が国の時間軸では、和宮降嫁寺田屋事件生麦事件があった年なので、ざっくり言って「幕末」ということです)

わずか3分ほどの小品ですが3つの部分に分かれており、その内の2つ目(0:52~)を耳にした時に「ニヤリ」とした方は、ご自宅の風呂用給湯器が株式会社ノーリツ製だということになります。

「お風呂が沸きました」のメロディーですね。

ノーリツの公式動画でご確認ください。

『ノーリツのおふろの曲 リモコンお湯はり完了の通知メロディー「人形の夢と目覚め」+「おふろがわきました」』
https://www.youtube.com/watch?v=rrNLJcWClS8

ところでこの「沸く」という動詞を国語辞典で引くとこう書いてあります。

「1 水などが熱せられて沸騰する。また、適当な熱さになる。
「湯が—・く」「風呂が—・く」
(2以降は省略)」
(小学館デジタル大辞泉)

「湯が沸く」という表現では水が、「100度近くで沸騰している」、あるいは「用途に応じた適当な熱さになって」います。

一方「風呂が沸く」では、風呂≒浴槽の材質(木、ホーロー、ステンレス、人工大理石、繊維強化プラスチック)そのものの温度を語っているわけではありません。

これは「換喩(かんゆ)」の1例だと考えられます。

「あるものを,そのものの属性,またはそれに密接な関係のあるもので表現する修辞法を指す。
この関係性には,容器で中身(〈皿で料理〉),原因で結果(〈ゴッホでゴッホの作品〉),具体物で抽象物(〈永田町で政界〉)を表すなどの場合がある」
(平凡社百科事典マイペディア)

「風呂が沸く」の場合は浴槽という「容器で中身」のお湯のことを語っているパターンでしょうか。

英語ではmetonymyメタニミーと呼ばれる修辞法です。

metonymy

語源である古代ギリシャ語において、「changeやotherという意味の要素」+「nameという意味の要素」という構成の言葉があり、それがラテン語⇒フランス語と流れて英語に入ってきました。

ギリシャ文字で「ὄνομᾰ」、ラテン文字に転写すると「ónoma」がその「nameという意味の要素」です。

「ὀνομᾰτοποιῐ́ᾱ(onomatopoiíā)」の前半にある要素でもあり、これはラテン語、フランス語を経由して我が国では「オノマトペ」とカタカナ表記されている、「擬声語・擬態語」のことです。

「オノマトペ
おのまとぺ
onomatopée フランス語
ものの音や声などをまねた擬声語(ざあざあ、じょきじょきなど)、あるいは状態などをまねた擬態語(てきぱき、きらきらなど)をさすことば」
(小学館日本大百科全書(ニッポニカ))

何故「nameという意味の要素」が使われているかと言うと、「音を真似して名前を新造すること」が「オノマトペ」の元々の成り立ちだからです。

-onymで終わる単語

「ὄνομᾰ(ónoma)」は更に現代英語の中に見られる、-onymで終わる単語の基盤でもあります。

「-onym
[連結]〔名詞を作って〕
1(ある種の名前を表して)…名
2(他の語との関係を表して)…語」
(研究社新英和中辞典)

列挙すると…

anonym:仮名、匿名者(形容詞形anonymousは「匿名の」)

pseudonym:仮名、筆名(発音は「スーダニム」)

synonym:同義語

homonym:同音同綴(てつ)異義語(「week」と「weak」など)

antonym:反意語

acronym:頭字語(複数の単語の頭文字を合わせた言葉)

名詞name

そしてお馴染みnameも、見た目から想像できるように、やっぱり「ὄνομᾰ(ónoma)」と語源的つながりがあります。

「名前」


ネット上などで本人認証を行う際に使う「秘密の質問」とは、「他人にはなかなか知られることのない情報」を問う質問です。

「秘密の質問(ひみつのしつもん)またはセキュリティ質問(セキュリティしつもん、英語: security question)は、認証者によって用いられる共有秘密鍵の一形式である。 「あなたのペットの名前は?」「あなたの母親の旧姓は?」「初めて見た映画のタイトルは?」などの質問が秘密の質問として挙げられる」
ウィキペディア

「母親の旧姓」は英語では「mother's maiden name」となります。


我が国の唱歌『早春賦』(大正2年発表)の歌い出しは「春は名のみの風の寒さや」です。

「春といっても名目上のものにすぎず、風はまだ寒いままだ」といったニュアンスだと思いますが、「名のみの」「名ばかりの」を表す英語がin name onlyです。

「He is a scholar in name only.
彼は名だけ[有名無実]の学者」
(研究社新英和中辞典)

これの応用で、政治系の記事などに出てくるのが「Republican in name only名ばかりの共和党員」であり、頭文字をとってRINOと略されます。

(発音は「ライノウ」であるようです)

Merriam-Websterの辞書の定義はこうです。

「a member of the Republican party who is disloyal to the party or insufficiently conservative
(共和党員でありながら、党に対して忠実でなかったり、保守的態度が不十分な者)」

同サイトに載っている使用例をご紹介します。

「That led Mr [Donald] Trump to say she was "worse than a RINO," an acronym for "Republican in name only."
(それが理由でドヌルド・トランプ氏は彼女のことを「RINOより悪い」(「名ばかりの共和党員」の頭字語)と言うに至った)」

(「彼女」とは誰かと検索してみると、Lisa Murkowskiリーサ・マーカウスキーという人物のようです)

「名ばかりの」あるいは「名目上の」という意味の形容詞nominalもやはり「ὄνομᾰ(ónoma)」に由来します。

「a nominal ruler
(実権のない)名ばかりの支配者
nominal wages
【経済】 名目賃金」
(研究社新英和中辞典)

「評判」


「He didn’t want to do anything to damage the good name of the company.
(彼は会社の良い評判を損なうことは何一つしたくなかった)
The restaurant got a bad name for slow service.
(その料理店は料理が出てくるのが遅いので悪い評判が立った)」
(ロングマン現代英英辞典)

これらのように評価を表す形容詞が付いている場合は、nameそのものは中立的に使われています。

一方次の例文ではそのような形容詞がなく、name自体に「好評」という肯定的な意味合いが含まれていると考えられます。

「The restaurant has a name for being cheap and good.
あのレストランは安くてうまいという評判だ」
(研究社新英和中辞典)


日本語の「名を成す」と同じ感覚の表現「make a name for oneself/make one's name」があります。

「He quickly made a name for himself in the Parisian art world.
(彼はパリの美術界でたちまち名を成した)」
(ロングマン現代英英辞典)

「She was beginning to make a name for herself as a portrait photographer.
(彼女は肖像写真家として名を成しつつあった)
He made his name with several collections of short stories.
(彼は幾つかの短篇集で名を成した)」
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)

1例目では前置詞inが「どのような場における名声か」を、2例目では前置詞asが「何者としての名声か」を、3例目では前置詞withが「何を以て成された名声か」を語っています。

これらのnameをfameと言い換えるとすれば、そのような「fameを持つ人=famousな人=有名人」を意味する使い方もnameにはあります。

「the great names in science
科学界の著名人」
(研究社新英和中辞典)

「Poor attendance at the concert was put down to the lack of big names.
(その演奏会にあまり人が集まらなかったのは、有名音楽家が出なかったのが原因だとされた)」
(ロングマン現代英英辞典)

「悪口」

「They called one another all sorts of names.
彼らは互いにばかのあほうのと悪口を言い合った」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

これは「call【人】names =【人】に悪口を言う」という表現の使用例です。

nameが、先程の「名声」という肯定的評価とは逆に、否定的意味合いの「悪口」として登場します。

この表現を下敷きとして出来た、「悪口を言うこと」の意の名詞がname-callingです。

「Heated discussion ensued, followed, apparently, by name-calling.
(それから激烈な議論が起こり、その後どうやら悪口の言い合いになったようだ)」
(Longman)

動詞name

動詞としてのnameの使い方を確認しましょう。

名前を新たに付ける


「They named【their baby】《Ronald》.
彼らは赤ん坊にロナルドと名づけた」
(研究社新英和中辞典;カッコ類は引用者が付けた。以下同様)

お察しの通り、この文はSVOCですが、Oとして【誰/何に名前を付けるのか】が、Cとして《その名》が来ています。

もし《その名》を質問したければwhatに置き換えればいいわけです。

「《What》did they name【him】?
彼に何と名前をつけましたか」(同)

nameを過去分詞にして「《 》と名付けられた【 】」を言い表せます。

「【a doctor】named《Dolittle》
ドリトルという名の医者」(同)


ご存じの方も多いと思いますが、「▲▲にちなんで」の意味を持つ前置詞afterとの組み合わせ表現があります。

「【The baby】was named (《Ronald》) after ▲his uncle▲.
赤ん坊はおじの名を取って(ロナルド)と名づけられた」(同)

【 】の人と▲▲の人との関係は、namesake(ある人の名前をもらった人)という名詞を使うと次のように表せます。

「【My brother】,《George》, is the namesake of ▲George Washington▲.
兄のジョージはジョージ=ワシントンにちなんで名づけられた」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

既にある名前


「正しい名前を言う」という意味では次のように使います。

「Can you name this animal?
この動物の名を言えますか」(同)


「名前を公表する」ならこちら。

「Police have named the suspect.
警察は容疑者の名を公表した」(同)


「名前を挙げる⇒列挙する」ならこうです。

「name several reasons
いくつかの理由を並べる」(同)

「列挙する」のニュアンスを持つ熟語で「to name but a few:ほんの2、3、例を挙げるならば」というのに出くわすことがあります。

「This is a feature of languages such as Arabic, Spanish and Portuguese, to name but a few.
(これは、ほんの数例を挙げるならばアラビア語、スペイン語、ポルトガル語、それらの言語に見られる特徴である)」
(ロングマン現代英英辞典)

(ここでのbutは接続詞「しかし」ではなく、onlyの意味の副詞です)


「名前を挙げる⇒指定する」ならこうです。

「Name the place. We'll meet you there.
場所を指定してください. そこでお会いするようにしますから」
(研究社新英和中辞典)

「you name it」という慣用表現があり、「君がそれを指定したまえ」が直訳ですが、意味としては「anything何でも」に近いものです。

「I also enjoy windsurfing, tennis, racquetball, swimming, you name it.
(私はまた、ウィンドサーフィン、テニス、ラケットボール、水泳…何でも楽しんでいる)」
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)

また、「you name it」の後に「I’ve got it/we’ve got it/he’s done it」などといった文言が続くこともあります。

「Coke, ginger ale, root beer – you name it, I’ve got it.
(コカ・コーラ、ジンジャー・エール、ルート・ビア…何でもあるよ」
(Cambridge Academic Content Dictionary)

namelyという副詞は、「具体的に言うと」の意味で使います。

「Two boys came, namely, Bill and Jack.
2人の少年が来た.ビルとジャックだ
(◆((英))ではnamelyの直後のコンマは省略されることが多い)」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)


「名前を挙げる⇒指名する、任命する」ならこうです。

「The premier named him Finance Minister.
首相は彼を大蔵大臣に任命した」
(研究社新英和中辞典)

この意味に関しては、同じく「ὄνομᾰ(ónoma)」の子孫である動詞、nominateも使えます。

「The Prime Minister nominated him (as [to be]) Foreign Minister.
総理大臣は彼を外務大臣に任命した」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

いわゆる「ノミネート」ですが、このカタカナから受ける印象は芸術分野の賞に関するものかもしれません。

「The song was nominated for a Grammy.
その歌はグラミー賞にノミネートされた」
(研究社新英和中辞典)

「ノミネートされた人/もの」を意味する名詞が、「フランス語で過去分詞をつくるときの語尾」に由来する語尾-eeが付いたnomineeです。

授賞式において壇上の贈呈者(presenter)は、まず候補に挙がっている人/作品を列挙してから受賞者/作品を発表します。

次の画像はアカデミー賞の授賞式の様子です。

『Matthew McConaughey winning Best Actor | 86th Oscars (2014)』
https://www.youtube.com/watch?v=wD2cVhC-63I

こちらの動画の0:17辺りから、贈呈者が以下のように前置きして候補者の名前を挙げていく様子が収められています。

「Here are the nominees for performance by an actor in a leading role...
(主演男優賞に推薦されている方々は…)」

「名詞」

これまでの言葉と同源の単語が「noun名詞」です。

使い方としては、waterなどの「物質名詞」はmaterial nounですし、Japanなどの「固有名詞」はproper nounとなります。

また、「わり」の意の接頭辞pro-が付いたpronounはまさに「名詞」です。

「再帰代名詞」ならばreflexive pronounと呼ばれます。

少しややこしい話

「名前」を意味する語は、英語の「ご近所」の言語でnameと同源です。

独:Nameナーメ
仏:nomノム
伊:nomeノーメ
西:nombreノンブレ

スペイン語は他と比べてbとrが余計な感じがしますが、これがややこしさの発生源です。

全く同じつづりのフランス語「nombreノンブル:数」があるからです。

西「¿Qué nombre le van a poner al niño?
(彼らはその男の子にどんな名前をつけるつもりなのか)」
(Collins English-Spanish Dictionary)

仏「861 est un nombre à trois chiffres.
(861は3桁の数字である)」
(Collins French-English Dictionary)

フランス語のnombreは「名前」系とは全く別の語源(英語numberと同源)です。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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