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BLOW3兄弟

イギリスのギター奏者Jeff Beckジェフ・ベックが逝去して、そろそろ1ヵ月です。

ベックの代表作に挙げられることの多いアルバム『Blow by Blow』は、The Beatlesを手掛けたことで名高いGeorge Martinジョージ・マーティンがプロデュースを担当しました。

と言ってもビートルズ的な作品を目指しての依頼ではなく、同じくマーティンがプロデュースした、ジャズ・ロックのバンドMahavishnu Orchestraマハヴィシュヌ・オーケストラのアルバムにベックが触発されたのがきっかけでした。

『Blow by Blow』の収録曲の1つ『Scatterbrain』を、そのマハヴィシュヌ・オーケストラの主宰者であるイギリスのギター奏者John McLaughlinジョン・マクラフリンがベックのコンサートに招かれて演奏している動画がYouTubeに上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=7YvRm9HMCDc

「あなたの影響を受けて作った曲なんですが、一緒にどうですか?」という感じに見える状況です。演奏後にベックがマクラフリンのことを「my hero」と言っていますので、「兄貴分」とか「師匠格」といった存在なのでしょう。

さて、このアルバムがどうしてこの題名になったのかは知りませんが、英語学習的に分析していきましょう。

【第1のblow】

ここで使われているbyという前置詞は、「one by oneひとつずつ」「little by little少しずつ」「day by day一日ごとに」などで見られる、「▲▲ by ▲▲」の形で「▲▲ずつ」を意味する用法と思われます。ということは「blow by blow」で「1blowずつ」となります。

「blow by blow」をハイフンで1語にまとめた「blow-by-blow」という形容詞は「非常に詳細な」という意味で辞書に載っています。辞書の解説を見ると、ボクサーが繰り出す「blow殴打」を1つ1つ、(「顎へのアッパーカットだ」「フックでこめかみを狙った」などと)詳しく解説することに由来するそうです。

このblowは比喩的に、「精神的、社会的な打撃」という使い方もできます。

「Her death was a terrible blow to him.
彼女の死は彼にとってひどい打撃であった.」
(研究社新英和中辞典)

「Every industry is taking [suffering] a blow.
あらゆる産業が打撃を受けている」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

【第2のblow】

古語だとして辞書に載っている、「開花(する)」という意味のblowが存在します。

個人的にはこの言葉を実際の文章で見たことはないのですが、派生語である過去分詞由来形容詞full-blownはたまに遭遇します。

文字通りには「満開の」であるfull-blownは、それよりもむしろ比喩的な「完全に発達した」「本格的な」を覚えておくと良いと思います。

「work one's ideas into a full-blown theory
着想を本格的な理論に仕上げる.」
(研究社新英和中辞典)

【第3のblow】

これが恐らく一番なじみのあるblowだと思います。「髪が長いので洗った後ブローするのに時間がかかって腕が疲れる」と言う時のblowで、「空気の流れ」に関するblowです。

この意味のblowを動詞として使う場合、少しややこしいので整理しましょう。

①実質的に主語無しの場合

例えばIt is raining hard.では動詞rainに「雨」という要素が含まれているので主語は無くてもいいはずで、しかしながら英語は主語を置くことが義務なのでその位置を特に意味の無いitで埋めています。

同じようにIt is blowing hard.での動詞blowには「風」が含意されているので、itを主語にして「風が激しく吹いている」になります。

②「風」を主語とする場合

「A strong wind blew all day long.
強い風が一日中吹いた.
A pleasant breeze was blowing from the river.
さわやかなそよ風が川から吹いていた.」
(研究社ルミナス英和辞典)

「風」を意味する名詞(ここではwind, breeze)を主語にする、分かりやすいパターンです。

上記の2例は自動詞用法ですが、他動詞用法において風を主語とした時に目的語となる言葉はどういった性質のものでしょう。

「The storm blew the roof off our house.
あらしで私たちの家の屋根がはがれた.
The wind blew the door shut.
風でドアが閉まった.」(同)

「屋根」や「ドア」は風、つまり「空気の流れがもたらす力を受ける側」であるものと言えます。

③風を起こす側が主語になる場合

「She blew on her soup to cool it.
彼女はスープを吹いて冷ました.
She blew the dust off the table.
彼女はテーブルのほこりを吹き払った.」(同)

1つ目の例は自動詞用法、2例目は他動詞用法であり、空気の流れの力を受ける側のものである「スープ」と「ほこり」は、前者では前置詞の句に、後者では直接目的語になっています。

ここでの「彼女」達は「風」そのものではなく、それを発生させる存在であることが②との違いです。

目的語が、空気の流れを受けて振動して音を出す物である場合もあります。

「Many drivers began to blow their horns.
大勢のドライバーがクラクションを鳴らしだした.」(同)

ジャズの名曲『Four Brothers』はWoody Herman and His Orchestraウディ・ハーマン楽団の作品であり、楽団のサキソフォン奏者のエース4人がビッグ・バンドをバックにテーマを奏で、代わる代わるソロを取っていきます。

その4人の通称がFour Brothersであり、その中にはStan Getzスタン・ゲッツやZoot Simsズート・シムズといった有名な演奏家がいます。
https://www.youtube.com/watch?v=hK_9otl3sZ0

このように元々は器楽曲ですが後に歌詞が付けられ(いわゆるvocalese)、特にThe Manhattan Transferザ・マンハッタン・トランスファーのものが有名です。彼ら4人の歌い手はオリジナル版の管楽器ソロの複雑なフレーズを忠実になぞっており、さすがの技術だなと感心します。
https://www.youtube.com/watch?v=pl3WcUo0dw8

その歌詞には「Four brothers who are blowin' our horns我ら《四人兄弟》、ラッパを吹いています」という一節があり、「四人兄弟」が風を起こす側の主語となり、「ラッパ」が風の力を受けて鳴っている直接目的語となっています。

さて次の例は直接目的語の性質が今までと違います。

「He used to blow glass animals for us.
彼はよく私たちにガラスの動物を吹いて作ってくれたものだった.」
(研究社新英和中辞典)

力を受ける側のものは(ここには書いていない)熱せられたガラスの塊であり、「ガラスの動物」は工程が終わった後に得られる「出来上がりの品」です。

先日、厳しい寒さを報じる一環としてウェザーニュース社のサイトに『灯油ポリタンクの色は地域で違う!?その理由とは』という記事が載っていました。その中で灯油を運ぶポリタンクを購入する際の目安の一つとして「日本ポリエチレンブロー製品工業会」のシールが貼ってあるものを選ぶと良いことが書かれていました。
https://weathernews.jp/s/topics/202301/270075/rakuraku_index.html

この工業会の名前から分かるように、ポリタンクはポリエチレンを「ブロー」して作られるというわけですね。「ブロー成形」や「吹き込み成形」と呼ばれる製法であり、英語としては「blow molding」となります。

極端に強い風の流れが作られる「爆発」についてもblowで表現できますが、目的語には「力を受ける側」と「出来上がりの品」の両方があり得ます。

「A terrorist blew up a building in this city.
テロリストがこの町のビルを爆破した
The bomb blew a hole in the ceiling.
爆弾で天井に穴ができた」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「ビル」は「力を受ける側」、「穴」は「出来上がりの品」ですね。

④風の力を受ける側が主語になる場合

「The papers blew away in [on] the wind.
書類が風に吹き飛ばされた.
Dust blew in through the cracks.
砂ぼこりがすき間から舞い込んだ.
Her long hair was blowing (in the wind).
彼女の長い髪の毛が風になびいていた.」
(研究社新英和中辞典)

これらの例で主語になっている「書類」「砂ぼこり」「髪の毛」はどれも風の力を受けて動いている物です。ですから、主語は「吹く」側ではなく「吹かれる側」なので、②③とはガラッと変わります。

アメリカの歌手Bob Dylanバブ・ディランの有名な『Blowin' in the Wind』の歌詞「The answer is blowin' in the wind」では「その答え」が「風に吹かれて」いることになります。(字幕をonにしてご覧ください)
https://www.youtube.com/watch?v=MMFj8uDubsE

管楽器の類、爆発の話でも「吹かれる側」を主語にする用法があります。

「A whistle blew and the match ended.
ホイッスルで試合が終わった
The front left tire blew out.
前輪左のタイヤがパンクした」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

【おまけ:「ブロー」じゃない】

ところで、blowとよく似たつづりを持つ「brow(額、眉毛)」という単語は、母音の発音が違い、「ブラウ」です。しかし、日本語の文の中で「ブロウ」「ブロー」と誤って表記されることが多いので要注意です。

「眉毛」のことを特に言う時はeyebrowという複合的な言葉になって使われますが、眉毛は化粧の対象なので、例えばこんな文が書かれることがあります。

「アイブロウとは眉を整える化粧品のことをいい、アイブロウシザー、アイブロウコーム、アイブロウパウダー、アイブロウペンシルなどがあります。」
グルノーブル美容専門学校のサイトより)

「アイブロウ」、もとい「アイブラウ」は英語としては単に「眉」であり、「眉を整える化粧品」は日本語において拡大した意味合いだと思われます。

「eyebrow ▲▲」ならば「眉を整えるための▲▲」という意味で英語でもOKで、上記の4つの道具はそれぞれ「eyebrow scissors」「eyebrow comb」「eyebrow powder」「eyebrow pencil」となります。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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