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FALLの太陽は釣瓶がFALLするように…

すっかり過ごしやすい気候になり、金木犀の香りも町に漂う季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

…という時候の挨拶が使える季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」と言いますが、この釣瓶とは何でしょう。

「《「吊 (つ) る瓮 (へ) 」の意》井戸水をくむために、縄や竿 (さお) などの先につけておろす桶 (おけ) 。」
(小学館デジタル大辞泉)

実物の画像をご覧ください
https://pixta.jp/tags/井戸 釣瓶

滑車に通された縄の先にある桶なので、井戸の中へと素早く降下していきます。

秋の日が沈む様子をそれに喩(たと)えている訳ですが、そんな感じがするのは何故なのか。専門家に訊いてみましょう。

『諺「秋の日はつるべ落とし」“つるべ”って何?』
https://weathernews.jp/s/topics/202010/260065/

気象情報サービス業のウェザーニュース社のサイトに載っている文章です。

3つの観点で考察されていて、①日没時刻が早まること、②日の出から日の入りまでの長さが短くなること、③日が沈んでからもしばらくは空が暗くならない時間帯があるものだが、それが短くなること、といったことが図入りでわかりやすく解説されています。

オータム

さて、「秋」を意味する英語と言えば「オータム」ですが、音を知っていることと正しいつづりで書けることは別問題です。

「otam」ではないことは当然として、「au」で始まることが分かっている人でも語尾のnを抜かしがちです。

それを避けるため、語源であるラテン語の形を頭に入れておくのも一法です。

「autumnusアウトゥムヌス」ならば、いわゆる「ローマ字」読みとさほど変わらないため、日本人の頭に残りやすいと思います。

そして「ヌ」の音があるのでnを忘れないという寸法です。

ラテン語を介在させずに英語の中で完結させるならば、形容詞形autumnalをセットで記憶することです。

-alが形容詞を作る語尾であることは「nation」と「national」などの関係から多くの人の知るところであり、「オータムナル」という音が頭に入っていると、「ナル」から-alの「アル」を引けば子音nがあるはずだと思い当たるはずです。

使い方

普通は不可算の扱いとなりますので、「in autumn」のように無冠詞でOKですし、何らかの特定の秋には定冠詞を付けて「in the autumn」となります。

ただしlast autumn、this autumnなどの場合は前置詞inを使いません。

「Steve and Paula got married last autumn.
スティーヴとポーラは昨秋結婚した」

一方、「色々と想定できる秋のタイプの中の1つ」ならば不定冠詞を付けて可算扱いになることもあります。

「a magnificent New England autumn
(ニュー・イングランド地方の壮大な秋)」
(Merriam-Webster)

季節を表す他に、比喩的な用法があります。

「[the autumn] 成熟期; 凋落(ちようらく)期; (人生の)初老期.
in the autumn of life 初老期に」
(研究社新英和中辞典)

「成熟期」なら良さげな響きが、「凋落期」なら否定的ニュアンスがあるので、プラスとマイナスの両方で使うようです。

これはその前の季節であるsummerと対比して覚えると良いでしょう。

「[the summer] 青春,盛り 〔of〕.
the summer of (one's) life 壮年期」(同)

形容詞として

autumnは形容詞として「秋の」の意味で使え、形容詞形autumnalよりも平易な感じがします。

「秋分」は「autumn equinox」でも「autumnal equinox」でもOKです。

秋分は秋の彼岸の中日(ちゅうにち)に当たります。

なんでも、昼夜の長さが同じになる秋分(春分もそうですが)は太陽が真東から昇って真西に沈むことから、あの世への門が開くとされているのだそうです。

この日に皇室では歴代天皇などの忌日をまとめて祀(まつ)っており、「秋季皇霊祭」と呼ばれます。(春も同様)

祭日であったこの日が現在では「秋分の日」と改称されて国民の祝日となっています。

他言語では

ラテン語autumnusの子孫は、イタリア語のautunnoアウトゥンノ、スペイン語のotoñoオトーニョ、フランス語のautomneオトンヌなどです。

英語autumnにあった比喩的用法もそれぞれにあります。以下はみな、「人生の秋=初老期」の意です。

伊:l'autunno della vita
西:el otoño de la vida
仏:l'automne de la vie

美術関係で「サロン・ドートンヌ」という言葉を聞いたことがありますか?

「サロン・ドートンヌ(Salon d'automne)は、毎年にパリで開催される展覧会。「のサロン」、「秋季展」の意。ル・サロン(官展)を運営するフランス芸術家協会、および国民美術協会(ラ・ナシオナル)の保守性に対抗して、1903年にベルギーの建築家フランツ・ジュールダン(フランス語版)を中心とするギマール、カリエール、ヴァロットン、ヴュイヤール、ボナール、ルオー、マティス、マルケらの建築家、画家、版画家によって創設された。」
ウィキペディア

ハーベスト

「秋」

秋は収穫の季節ですが、「収穫」は英語でharvestですね。

autumnが主流になるまで、harvestが秋という季節の名称でした。

(現在でも季節名として使うイギリスの方言があるそうです)

同語源のHerbstヘルプストはドイツ語でそのまま「秋」です。

「im Herbst
秋に
der Herbst des Lebens
人生の秋」
(小学館プログレッシブ独和辞典)

(尚、「収穫」は全く別系統の語「Ernte」)

ドイツのサッカー・リーグ(ブンデスリーガ)には「ヘルプストマイスター」という言葉があります。

Jリーグと違い、1つのシーズンは秋に始まって翌年春に終わるのですが、途中に冬の中断期間を挟みます。

そのwinter breakまでの、つまり前半戦終了時点での首位チームを「Herbstmeister」と称します。(この場合の「Meister」はchampionの意)

この「秋の王者」が最終的にシーズン全体の王者になることが、ちょっと古い統計ですが西暦2011年/平成23年までの時点では、3分の2位の割合であるそうです。ですから、このように取り立てて扱うことにそれなりの意味があるのでしょう。

「収穫」

さて英語の話に戻りまして、この言葉には①収穫の時期②収穫という行為③収穫される作物④収穫高、と微妙に異なる使い方があります。

①「the beginning of the harvest
(収穫期のはじめ)」
(Merriam-webster)

②「assisting neighbors in their harvest
(近所の人の収穫作業を手伝う)」(同)

③「reap [gather] a harvest
作物を刈り取る[取り入れる]」
(研究社新英和中辞典)

④「This year's cotton harvest was great but the corn harvest was disastrous.
(今年の綿花の収穫量は多かったが、トウモロコシの収穫量はひどいものだった)」
(Wiktionary)

比喩的に用い、仕事などから得られる「成果」「報酬」を表すこともあります。

「The research yielded [produced] a rich harvest.
その研究は豊かな成果をもたらした.」
(研究社新英和中辞典)

フォール

「秋」

fallが「秋」を意味するのは「fall of the leaf=葉の落下」から来ていて、主として北米での言い方であるようです。

先程autumnのところで説明した

「普通は不可算の扱い…、何らかの特定の秋には定冠詞を付けて…。ただしlast …などの場合は前置詞inを使いません。」

という事情はこちらも同様です。

有名な曲『枯葉』は元々フランス語の歌ですが、英題『Autumn Leaves』として英詞が付けられました。

「fallするleavesが窓辺に吹き積もる
赤や金色の、autumnのleavesが」

という風景描写から始まりますが、

「autumnのleavesがfallし始める頃、」

とりわけかつての恋人に会いたくなる…といったような話になっています。

原曲の題名は『Les Feuilles mortes』でまさに「枯れた葉(複数)」という構成となっています。英語でも「枯葉」は(単数形なら)「dead leaf」でOKです。

フランス語詞で「葉」が出てくるのは英語詞よりも頻度が低くなっています。

「feuilles mortesが大量に掻(か)き集められる
思い出や後悔も同じく大量に」

そして原曲では「落ちる」に当たる言葉は明示的には出てきません。

下記の動画で英語詞をご確認ください。

『AUTUMN LEAVES - (NAT KING COLE / Lyrics)』
https://www.youtube.com/watch?v=xS8x-4sE6dE

「落ちる」

「小学館プログレッシブ英和中辞典」では「fallの主な意味」が以下のようにまとめられています。

「1 〈物・人が〉落ちる
2 〈人・建物が〉倒れる
3 〈道などが〉下る
4 〈闇・光などが〉おおう
5 〈数量が〉下がる
◆起点は必ずしも意識されずに,上から下への物理的な移動のイメージに基づいて,落下・降下・減少などを表す」

物理的な話での使い方はイメージが湧くと思いますので、抽象的・比喩的なものに絞って取り上げます。

①数値的なものが「下がる」「減る」場合。

「Share prices fell on both sides of the Atlantic with the FTSE 100 tumbling by 161 points, or 2.2%, to finish the day at 7,280 – its lowest level since last November – while stocks fell by a similar amount across Europe and by more than 1% in New York.(株価はヨーロッパとアメリカの両方で下落した。(ロンドン市場の)FTSE100種総合株価指数は161ポイント分、換言すると2.2%急落して終値が7280であった。これは去る11月以来最安の水準。一方、ヨーロッパ中で似たような幅で株が下落し、ニュー・ヨークでは1%超の下落幅であった。)」
(イギリス紙『The Guardian』の記事より)

②高い位から「落ちる」こと。

徳川斉昭(とくがわなりあき)は、後に15代将軍となる慶喜(よしのぶ)の父親です。水戸藩の藩主であり、江戸幕府の中でも要職に就いていました。

14代将軍を誰にするか、あるいは、開国するべきか、といった問題で井伊直弼(いいなおすけ)と対立していました。

「紀州藩主徳川慶福を擁して南紀派を形成する井伊派に対抗し、一橋派は斉昭の実子である一橋家当主・徳川慶喜を擁して構えた。斉昭は敗れ、直弼は安政5年(1858年)に大老の座につくと日米修好通商条約を独断で調印し、さらに慶福(家茂)を将軍とした。
一連の将軍継嗣及び条約調印の問題をめぐり、同年6月24日に斉昭は慶篤や甥である尾張藩主徳川慶恕を伴い、江戸城無断登城の上に井伊大老を詰問した。逆に翌7月、井伊直弼から水戸藩江戸屋敷で謹慎を命じられ、幕府中枢から排除された。」
ウィキペディア

「Ii soon became tairo and Nariaki fell from power.
まもなく井伊は大老になり,斉昭は失脚した。」
(浜島書店 Catch a Wave)

また国家などが「滅びる」ことにも使います。

fallは名詞としても「落下」などですが、「滅亡」の意味ももちろんあります。

夏目漱石の『吾輩は猫である』でこんな場面が出てきます。美学者である「迷亭(めいてい)」という人物の発言です。

「いや時々、冗談を言うと人が真に受けるのでおおいに滑稽的美感を挑発するのはおもしろい。
 せんだってある学生にニコラス・ニックルベーがギボンに忠告して、彼の一世の大著述なるフランス革命史を仏語で書くのをやめにして英文で出版させたと言ったら、その学生がまた馬鹿に記憶のよい男で、日本文学会の演説会で真面目に僕の話した通りを繰り返したのは滑稽であった。ところがその時の傍聴者は約百名ばかりであったが、皆、熱心にそれを傾聴しておった。」

迷亭先生の「冗談」のポイントとしては、まずNicholas Nicklebyニコラス・ニックルビーはCharles Dickensチャールズ・ディキンズの小説に出てくる架空の人物なので、実在の人物Edward Gibbonエドワード・ギブンが忠告を受けるわけがありません。

また『フランス革命史The French Revolution: A History』はギブンではなく、Thomas Carlyleトマス・カーライルの作品です。

ギブンの代表作と言えば『ローマ帝国衰亡史』であり、この原題が『The History of the Decline and Fall of the Roman Empire』です。

「衰亡」のうち、「衰(退)」をdeclineが、「(滅)亡」をfallが担当しています。

しかし、「▲▲ and fall」という形式で「滅亡」と対比される言葉は「rise」の方が頻度が高いのではないかと思います。

国家などについて「rise and fall of ■■」を和訳すれば「■■の興亡」となります。(「興」は「勃興」)

③「気落ちした表情になる」こと。

「His face [spirits] fell at the news of his mother's illness.
母が病気だと聞いて彼の顔色[気分]は沈んだ」
(研究社新英和中辞典)

④災いが「降りかかる」こと。
「Tragedy fell upon him.
悲劇が彼を襲った」(同)

⑤出来事などがどんな日に「当たる」のかということ。

「Thanksgiving Day falls on the fourth Thursday in November.
感謝祭は 11 月の第 4 木曜日に当たる」(同)

⑥副詞shortと組み合わせて、「不足する」ことを表します。

文字通りの意味では、目標の「short間近で」矢などが「fall落ちる」ことを言います。

「The arrow fell short of the target.
矢は的に届かなかった」(同)

これを比喩的に使うわけです。

アメリカ連邦議会で下院議長を務めていた共和党のKevin McCarthyケヴィン・マッカーシーは、10月に解任動議で負けてその職から追われました。

そもそも今年1月の下院議長選挙に出馬した際にもなかなか支持が得られず、再投票を繰り返してようやく就任したのでした。

太平洋のこちら側では我々が正月休みだった1月4日、この擦(す)った揉(も)んだに関連して出たThe Wall Street Journalの記事から引用します。

「Republican Kevin McCarthy fell short of winning the House speaker’s gavel in three rounds of voting Tuesday, leaving the chamber without a leader as a determined bloc of conservative holdouts refused to relent over longstanding complaints about the direction of the party.
(共和党のケヴィン・マッカーシーは火曜日の3回の投票において、小槌(こづち)に象徴される下院議長の職を獲得するには至らなかった。その結果、党の方針に就いての長年の不満に関して断固として妥協しない保守的議員達が態度を軟化させることを拒む中、下院は指導者不在で放置されている)」

シュート

皆さんの通った学校には「ダスト・シュート」はありましたか?

「ダスト・シュート(和製英語:dust chute、英語∶garbage chute)とは、高層建築物に設置するごみ棄て装置。各階で投入されたごみはチューブ(縦管あるいは縦につながった空間)を通して下に集積され運び出される。
(中略)学校では木造校舎から鉄筋コンクリート校舎への立て替えが進んだ際に導入された所も多いが、後年には生徒が転落事故を起こした場合の学校への責任追及を避けるため、投入口をふさぐ処置を施した所がほとんどである。」
ウィキペディア

ご覧のように「シュート」はshootではなく、chuteです。

「ch」を「シュ」の音に読ませることから察せられますが、フランス語の「落下」から来た言葉です。

そしてfallと同様に「滅亡」にも使います。

「la chute de l'Empire romain
ローマ帝国の没落」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

英単語としてもchuteは存在しますが、fallよりも守備範囲が極端に狭く、先述の「投下装置」や、「急流」といったものに限られます。

しかし一番有名な「シュート」は「パラシュート」でしょう。

parachuteのpara-は、この場合は「defense against」の意味を持つ接頭辞です。つまり、「落下防止装置」となるわけです。

普通の「落下傘」はイメージがわくと思いますが、「drag parachute(あるいはdrag chute)」はご存じですか?

スペース・シャトルが、またはもっと一般的な航空機でも機種によっては、着陸するときに「尻尾」の部分からパラシュートを出すのですが、そういった映像をご覧になったことがあるかもしれません。

それが開くことで「drag抗力」が発生するので制動距離が短くなります。

『Landing of a Space Shuttle Full HD!』
https://www.youtube.com/watch?v=jzhSN1ulHys

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた

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