「深夜の地下室」で登場人物が「告白する」、「ココア」

2011.04.05 Tuesday

俺の仕事は自分で言うのもなんだけど、売れっ子のミュージシャンだ。
華やかな世界に見えるけれど、テレビに見えない部分で地味な努力をしている
からこそ、今の自分がある。

「――っくそ、ムカツク」

いつも曲を作る時に使用しているレコーディング室で俺は悪態を吐く。
ここは場所が地下なのもあって、人目に付きにくいのでお気に入りの場所だった。

「なんだ、珍しく怒って。スランプ?」

休憩で外に出ていたプロデューサーが首を傾げる。

「違う!さっき来た雑誌の編集の質問にイラついたんだよ。
こっちは赤裸々に暗い過去を告白してやったのにさ……
あいつ、最後に売れてるからいいじゃないですか。で纏めやがったんだぜ!」

冴えないオタクだった俺がキャラクターまで変えて、血のにじむ様な努力を
した思い出を、踏みにじられた気がして悔しい。

「まあまあ、相手も悪気があって言った訳じゃないんだし。
プロなら我慢っていうのも必要だよ」

カルシウムが足りてないんじゃない? と彼は笑いながら
俺に手にしていた紙コップを差し出す。

「ココア?」

「そう。疲れた頭には効くよ。行き詰っているのは本当だろう?」

「ふーん……でも俺、ココア嫌い」

「……お前は、ちょっと人の気持ちというのを学んだ方が良いぞ」

呆れた表情をする彼に、小さく舌を出しながら俺はココアに口をつける。


――我がままを言うのは、あんたの前でだけだよ。

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