「深夜の畳の上」で登場人物が「耽る」、「ネットワーク」
2011.03.28 Monday
目の前に広がるのは大きな鳥居をくぐった温泉街の様な街。
コントローラーを操って、中心にある長い階段を一気に駆け抜けて
のれんをくぐった先が目的地だ。
『よう、今日はずいぶんと遅いんだな。
もう飽きて来ないかと思ったよ』
残念を表す汗のマークが見え、俺は慌ててキーボードを操り
すぐさま返事を返す。
『ごめん、ほんとごめん! 仕事が忙しくてさ……』
『そっか、俺に飽きた訳じゃないんだな。良かった』
『飽きる訳ないじゃん! お前がいないと俺ひとりじゃ狩り出来ないよ』
『ははっ、おだてても何もやらねーぞ』
こんな軽い感じのやりとりが、たまらなく好きだと思う。
俺は、この会った事もない画面の向こうのやつが好きだった。
このオンラインゲームに初めてログインした時、右往左往していた俺に
親切に声をかけてくれた相手。
今ではこの人に会いたいが一心で仕事から帰るとすぐにパソコンに向かうほどの
ハマりっぷりだ。
『時間も遅いし、早速狩り行くか』
『おう!』
――そして、1時間後。
楽しいひと時と言うのは、あっと言う間だ。
『じゃあ、また』
『またな~』
相手がログアウトをするのを見守ってから、俺は深く深呼吸をする。
ギュッと目を瞑って振り返ればそこは、何ともない、どこにでもある
畳の部屋が広がっている。
「はぁ……」
いつまで、こんな関係は続くのだろう。
思い切って、オフ会に誘いたいのだけれども
実際会って幻滅されたら立ち直れない。
ゲーム内の俺は元気いっぱいのキャラだけれども、実際は
こんなに引っ込み思案で臆病な人間だ。
「どうしようかなあ……」
どれだけ考えても答えなんて簡単に出る事はないのに。
俺は今日も制限時間のない「考える」というゲームに耽っていった。
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