(朗読)自作詩『蛋白石のねむり』

『蛋白石のねむり』

乱雑に重ねられた手紙に
ぽつぽつと雨が降りはじめ
境界を失くした紙片は
月曜日の集積所で
収集を待つ月刊誌の断面に似てくる
昨夜、思い立って一括りにした恋愛ドラマは
明け方の湿気を吸って
鍵を失くした日記帳のように清潔だ

(菫色の月光が注ぐとき蛋白石のねむりは静かに/饒舌になる)

週末のラインを操る
指先だけに顕れる
Lamé
所謂、みずうみのねむる蛋白石は
てらてらとして
月のあかるい間に秘密を呟く
誰にも触れない
生まれそこなった手紙のように
折り目をひろげた便箋は
恥ずかしげもなく罫線を伸ばし
どこまでも白く
ただ眩しいうたた寝をする
さらさら
さらさら
霧がかる湖畔を
いま発ったのは誰でしょう
呼び止める隙もなく
さらさら
いってしまったのです
呪われた水鳥のように
静かに/饒舌に
さらさら
さらさら
さらさら
鳥たちはかつての羽の色を覚えているだろうか
薄灰色の
小遣いで買った安価なペンの文字は
躊躇った端と端だけが嘴のように消えずにいる

『もうじき真白なシャツを着ます
膨らんだ胸に並ぶプラスチックの釦は
手指の傷よりきっぱり赤いタイが隠して
隠されているあいだだけ
白蝶貝になるンです』

なにもかも暴かれてしまう前に
手づから傷をつけて
アセトンでひたひたの
毛羽立つコットンで包み
(魔法を)溶かす
ささくれに滲みる痛みを我慢しても尚
ひとつぶ残った
Laméは
静かに/饒舌に
てらてらと
みずうみにねむる蛋白石のように
慎ましく 反射する



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2021年3月6日 現代詩投稿サイトB-REVIEWに投稿した作品を自ら朗読しました。

B-REVIEW https://www.breview.org
作品ページ https://www.breview.org/keijiban/?id=7118

BGMは フリーBGM DOVA-SYNDROME(dova-s.jp)より
こおろぎさんの『プラネタリウム』を使用させていただきました。

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