レモンシロップ
夏の終わりを労わるような
レモンを切る感触が
湿った肌を清拭する
作りあげた層は
糖水を思い出して
砂糖はよく泣いた
一滴、一滴、が
保存瓶の底に溜まる
結晶と溶解の
繰り返しにあらわれる揺らぎは
天気雨と蝉時雨のなかで産み落とされた
蜻蛉の卵の羽ばたきだ
清潔なスプーンで掬う最初のひと匙は
くちもとに密やかな光を留め
反時計回りで探る味蕾に
苦味が追いかけてくる
ひみつ、の合図にとまる蜻蛉と
キスを交わした夏の終わりに
はじめてのレモンシロップが冷蔵庫にしまわれてから
ひらくたびにやたら羽音を
響かせている
蝉の声とおく
蜻蛉とおくへ
氷砂糖とけて
(crystal...lu...ru...)
Lemon syrupは戸の奥に(在ル)
現代詩人会8月投稿作品
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