詩/初夏のエクレア

何が食べたい?って聞かれて、わたし、エクレアがいいって言ったの。それは少女時代の追憶、もう遠い昔のことだわ。エクレアが好きだっていう気持ちを初めて探り当てて、言葉にした、その日のことを、今でも覚えてる。チョコレートとカスタードクリームを頬張りながら、甘さから追憶を引き剥がすことはこれから先きっと一生できないの。

戻るつもりはなかったのに。わたし、少女に戻った。あの夜。始まりはあのキス。わたし、いつの間にか、エクレアをさみしくならずに頬張れていた、あの頃のわたしになっていた。

自分の身体を、隅々まで愛したかった。それは「できなかった」という寂寥とともに思い起こすことだった。あの夜までは。彼はいとも簡単に、まるでベッドの縁でも乗り越えるように、わたしを軽々持ち上げて、正しい場所に下ろした。正しい場所。ここに来たかったんだとたどり着いてから思い出す場所。

鏡に映らないわたしを彼の目が初めて見つめた。わたしの身体はちゃんとそこにあった。わたし、今まで幽霊になってたみたい。

愛してると好きと惚れるは全然違うものだけど、そんなことにこだわらなくてもいいのかもしれないって、少女のわたしは思った。

ある初夏の晩。明るい夜の闇があった。

古びたエレベーターのささくれ

ルームナンバー641

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