セックスフレンドがいた 後編-1

もう一人、の話をしてもいいだろうか。バンドマンと付き合うと歌にされるというが、わたしとセックスフレンドになるとポエムにされるということを、人類諸君は思い知らなければならない。それにわたしはかつてバンドマンと付き合っていて歌詞に現れる二人称のすべてを自分に重ねていたこともあるのだからなめないでほしい。
 

その人が現れて(もう消えてしまったが)、もうすぐ2年になるのだ。記憶があまりに痛々しく、熱を持っているようで、2年、という冷静な言葉がしっくりこない。

というより、書かないと忘れてしまいそうなのだった。忘れてしまえ、と言われるだろうが、優しいわたしは忘れてしまうこともできないのだった。かなしく燃えるような記憶。

彼をニと呼ぼう。

ニはクリスマスイブの夜に、少し上目遣いではにかみながら、交差点を渡ってきた。スーツにコートにビジネスリュック、しごくまともだがセンスの良さが瞬時に伝わる、まるで気の利いた人だった。

クリスマスイブだというのに、なぜかぴったり給料日前日で家に帰る電車代もなかったわたしは、タクシー代と引き換えに遊んでくれる人を、ツイッターのサブアカウントで半分本気で募集した。
そこで助けにきてくれた、よく考えると頭のおかしな、もう一度言うがしごくまともな大人がニだった。

まともな社会人のニは、律儀にも小綺麗な革財布から1万円札を取り出して、タクシー代に、と出会って3分も経っていないわたしにくれた。悪い人には見えなかったが、わたしは半ばどうにでもなれという気持ちだった。が、この時点でわたしは彼と寝ることが決して嫌ではなかった。

新宿にはあまり土地勘がないというニと、クリスマスイブのラブホは混んでいるのだろうかと話しながらどこでもいいやと最初に入ったホテルは、玄関で靴を脱いで受付に預けるタイプ(!)で、後に飲みの席で友人にこのことを話したら、これを言うだけでどこのホテルかわかられてしまって笑いの種になった。

なんのおしゃれもしていない、気に入っていないセーターにジーンズの自分が恥ずかしかった。ニはわたしにビールを、自分にはジンジャーエールを部屋に取り寄せ、わたしたちはクリスマスイブに乾杯した。

初めてのセックスがどうだったか、あまり覚えていない。ちょっとはにかみながら、両手でぽんとわたしの肩を叩いて押し倒す真似をしていたことくらいしか。ニはわたしを終始丁寧に扱った。どうやら優しい人のようだった。

偶然善人に当たった、くらいにしか、その日は思っていなかった。後腐れのない、セックスだけの関係がこの人とも続くのだと。

ニの懐に落ちてしまったのはいつからだったのだろう。

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