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12年前のある晩の事

 それは、初めての手術を終えて、患部からのリンパ液を抜くドレーンをつけて何日目かのことである。手術箇所などからリンパ液に血液が混ざった状態で滞留するので、血液が混ざらなくなりリンパ液自体の量も減るまで、ドレーンがつながれ、その先に廃液が溜まるバッグをポシェットをぶら下げながら暇な一日を送っていた。
 入院は個室ではなく大部屋で、大部屋の運用は、入院(手術前)と手術後、検査入院など色々な状態の人が毎日入れ替わるので、同じ部屋だからといっても実質三日くらいしか同じ部屋の中に居ることが無かった。

 ある夜、ぼーっと外を眺めていたら、向かい側のベットの患者さんから「うるさかったでしょう、ごめんなさいね」と謝られて「そういえば二日くらい多くの人に見舞われる患者さんだな」と感じていたのを思い出した。
 ある程度はお互い様だし、それほど気にしていなかったので「お友達沢山いらっしゃいますね」と返事をした。

 そして少し話をした。その人は10年くらい前に私と同じ様な手術をして、その後転移再発し、その当時では使える治療も確立しておらず、治験へ参加することになったという。(この辺りの話は医療者を介していないので不明点、不正確な部分があります)治験病棟へ入ってしまうと、外部の人と会えないので「実質お葬式みたいに集まってもらったの」ということだった。

 それから12年ほど経過し、当時の彼女の様な再発転移に見舞われ、それでもここ数年で効果のある新薬が幾つかあって、症状の進行を何とか抑えている。医学の進歩はありがたい。

 当時の彼女は「まだ60代だから諦めたくないわ」と最後に言っていたけど、その当時の彼女と比べて20歳程年下の私は、「諦めたいことなんて無いよ!」と大きな声で言いたい。実はもう、肺が辛いのだけど。

がんサバイバー丸12年になるステージⅣの患者当事者。発がん時は今で言うところのAYA世代。就労しながら治療してます。