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夢中になれる木彫りの世界へ〜「さぬき一刀彫 嵯峨山」

讃岐一刀彫とは

七福神

讃岐一刀彫は、江戸時代中期、香川県琴平町で生まれた伝統工芸です。一本の刀を使って、主に七福神や仏像が彫られてきました。現在は、この技術を発展させ、細かい線や陰影を表現した作品が数多くあります。

江戸時代に、金刀比羅宮旭社の建造に集まった腕自慢の宮大工が、遊びで木彫りをしたのが讃岐一刀彫の始まりとされています。明治後期に、工業徒弟学校が開かれ、この技術が広まったようです。

その後、全国的に知られるようになり、明治天皇にも献上されたと言われています。ところが、第二次世界大戦後は、需要の低迷や技術の後継者不足などによって衰退の危機に直面しました。そこで、1960年代からは地元の町おこしの一環として、技術の継承や製品の品質向上に取り組まれています。

現在では、香川県を代表する伝統的工芸品として、全国的にも高い評価を受けています。彫り師の手によって作り出される、緻密で美しい彫刻品は、多くの人々から愛され、長い歴史と伝統を受け継いでいるのです。

「さぬき一刀彫 嵯峨山」は、金刀比羅宮の参道入り口にあります。嵯峨山さんにお話しを伺いました。

嵯峨山さんの一刀彫はジャズセッションのよう

松の自然木の胴体は嵯峨山さんのオリジナリティ溢れる表現

一般的に一刀彫の材料としては、楠や松などの木材が使われます。一部の彫り師が、檜や桜、梅を使用することもあります。大きな作品や細部にこだわるときなどは、色々な木材を使い分ける場合も。
嵯峨山さんは、松を好んで使われるとのこと。松の節や形の多様さに沿って彫っていくと、面白いものが出来上がっていくからです。

当初予定していた彫り物も、彫っていくうちに別の形に変わっていくことがあります。あらかじめ設計されたものに従って彫るのとは違い、職人の感覚に従い木目に添いながら彫られていく。木が曲がっていたら、木に添って首を横に傾けた恵比寿さんが出来上がるのです。

まるでジャズセッションのように、そのときどきで表現が変わっていく面白さが、作品にもよく現れているように見えます。

店内に並んでいる作品の数々を、そういう視点で見ていくと、さらに楽しい気持ちになりそうです。

木の中にあるものを取り出す?

左から右の神の像へ、木から作品に彫りあがっていく

一刀彫の製作過程を拝見していると、職人技なのがよくわかります。たとえば、木の模様を眺めていると、内側から浮かんでくるように鼻や顔や腕が見えるような箇所があると聞きました。そういう木目を見ながら、経験を拠り所に彫り進めていくのだそうです。

嵯峨山さんは、この地で一刀彫の商いをして二代目。
子供の頃から親の仕事を見て育ったので、幼い頃から彫る感覚が自然と身についていきました。小学校4年生のとき、蛇で「愛」という文字を表す作品を彫ったことがあります。技術面でも芸術面でも、学校で高い評価を受けたそうです。その後、一刀彫を仕事にすると決めたのも自然な成り行きだったのでしょう。仕事として彫り始めて、四体か五体目でなんとなく売れる形になったというから驚きです。

職人技の継承は、人から人への伝承であり、見て感じて体で覚える部分が大きいのを改めて実感しました。

旅行者や町の人にも伝えたい

多くの旅行者が訪れる琴平で、「さぬき一刀彫 嵯峨山」には、先代の頃よりたくさんのお客様が来店し、作品を手にし購入して行きました。

多くの方に喜んでいただき、創る喜びを販売を通じてお客様と共有できたことが、嵯峨山さんにとって何より嬉しいことだそうです。
さらに、旅行者の方が思い出に残る経験をされたり、地域の方のカルチャー活動の一つになったりすれば、もっと多くの方に喜んでいただけるのではないかと考え、これからは製作販売だけでなく、彫り物の楽しさを伝えたいと考えています。

「仏像彫刻のすすめ」日貿出版社より

まず初心者の方には、基本の紋様をみながら、お皿やコースターを作ってもらってはどうかと構想中です。

試しに彫ってみました

地域おこし協力隊員が、試しに彫らせてもらいました。はじめて彫刻刀を握り、一から基本の彫り方を教わり、伝統的な花菱(はなびし)の模様に挑戦!

上は練習用に準備された板、下は見本

ものづくりが好きな隊員は、集中して見本を見ながら、どんどん彫り進めました。
刃物を使う緊張感と、木の香りや木が削られる感触と音がとても心地よく、内的世界に没入していきます。

模様を一つ仕上げると、次はもっと上手になりたい!と次の模様に手が伸びます。フィードバックをもらいながら、作業を行うとコツを掴むことができました。

基本の模様の練習が終わったら、表札などを作ったらいいかもしれません。少しずつうまくなっていくと欲が出てきて、いろんなものに挑戦したくなってきます。世界に一つだけしかない、手作りの表札を自分の手で作るのも面白そうです。

コースターから始まり、ゆくゆくは、ペットを摸造して形にしたり、自己像を彫ってみても楽しそう。さらに、七福神や仏像なども制作できたら立派な趣味になるでしょう。

なんでも買えば手に入るけれど、手に入らないのは、経験と感動です。そして、それらに要した時間こそが貴重で価値あるものとして、これから益々必要になってくると考えます。

良いものができたときの達成感も大きいですが、ただ、ひたすらに没頭して彫る時間こそが、唯一無二の自分の時間であり、生きがいになっていくのではないでしょうか。

「次は、これを作ってみよう」
「こんなのできたけど、どう思う?」

そうやって出来上がったものを、見せ合う楽しみも出てきそうです。そうして年齢を超えて色んな方の交流の場を作っていくのが、嵯峨山さんの当面の目標だとか。

琴平の町に訪れる人にも、もう一つの好きなことが見つかりそうですね。

自分で彫ってみたい方へ

興味のある方には、長期的にレッスンすることも可能だそう。

一刀彫について知りたいこと、確認したいことがありましたら、気軽に以下のInstagramからメッセージをお願いいたします。
https://www.instagram.com/choukoku.sagayan/
(店主であり彫師である、嵯峨山和徳さんのインスタグラムページ)

写真:葉、松原
文:松原

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