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勉強になった記事(よそ様が書かれたもの)

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#熱力学

熱力学の教科書と私のノートの位置づけ【熱力学のさまざまな流儀】

前回の記事で,エントロピー増大則を導くという,ひとつの大きな目標を達成したので,ここで一旦,熱力学の参考文献について書いてみたいと思います.(熱力学の記事の投稿がこれで終わりというわけではなく,これからも続く予定です.) 教科書を比較すると,熱力学の理論の構築の仕方には実に様々なものがあるのだなと思わされます.エントロピーをどうやって導入するか,というところが熱力学のミソですが,そこに時代背景や個性が現れます.しかも,一見すると同じ学問を表しているとは思えないくらい,色々な

【熱力学5】エントロピー【熱力学の核心】

これまでは,温度が一定の環境の下での操作しか考えてきませんでした.そのため,異なる温度での自由エネルギーを比較することは今のところできていません.今回は,異なる温度間での自由エネルギーをどのように決定すればよいか考えましょう.そして,この考察から,エントロピーという概念を導入することになります. 復習一定温度の環境の中にとある系が置かれているとします.この系の外部変数をわずかに操作して, と変化させたとします.これらの自由エネルギーの差が, と書けることは前回までの考察

【熱力学4】一般化された力【つり合いの条件】

状態空間上のある一点 とそこからすこしだけずれた点 を比較しましょう.これらの自由エネルギーの差を と置きます. 自由エネルギーの解析的性質二つの状態間の自由エネルギー差は,状態をずらすのに必要になる最小の仕事ですが,それは準静的に操作をしたときの仕事であることを前回示しました.準静的な操作は,常に系を平衡に保った操作ですから,準静的な操作で移りあう状態間は滑らかに繋がっていることが期待されます.というわけで,「自由エネルギーは外部変数について連続,かつ(少なくとも片

【熱力学3】自由エネルギー減少則【不可逆過程】

前回,「状態の変化に必要な仕事は,操作の仕方によって異なる」と言いました.直感的には,素早く動かす方が無駄が多くなり,必要な仕事が多くなるということで納得がいきます.しかし,ちょっと立ち止まって,ここでいう「無駄」とはなんのことか論理的に考えてみましょう. 理想仕事源まず,議論の出発点として,仕事をする系を用意しましょう.これを仕事源と呼びます. ここで,どんな操作の仕方をしても,その系のする仕事は一定となるような仕事源を用意したとましょう.このように振る舞う仕事源のこと

【熱力学2】自由エネルギー【熱力学におけるポテンシャル】

温度と外部変数だけではわからないこと温度と外部変数で状態を指定したとします.これを次のように書きましょう. これで私たちが手にしたのは,ただの「白地図」のようなものです.「地形」の情報は何もわかりません.どういうことか例をふたつ挙げましょう. ある温度一定の環境のもとに一種類の気体を用意し,密度の高い系と,密度の低い系を用意したとしましょう.それらをくっつけて,仕切りに穴をあけると,図1のように,密度の均一な状態に「混ざって」ゆきます.新しい平衡状態に達した後に穴をふさい

【熱力学1】状態の指定,温度とは何か【エネルギーと温度】

物理学では,私たちが考えようとする対象をこの世界から適宜切り取って,「系」と呼びます.物理学の仕事は大まかに言って,「系の状態を表すこと」,それから「系の状態の時間変化を記述すること」です.熱力学は前者の,状態を表すための学問です.そこでまず,「系の状態を表すのに必要な変数は何か」を考えることになります.今回は,その際に,温度という概念を導入します. 着目系と環境外部と何もやり取りをしない系を「孤立している」といいます.孤立した系を考えれば,エネルギーは保存しますから,孤立

序: 熱力学の目標

冷たいビールのほうが嬉しいものですが,冷たいビールも早く飲まないとぬるくなりますね.熱いコーヒーも部屋に放っておけばぬるくなっています.そしてぬるくなったコーヒーやビールは,もうもとに戻せません.例えばガスコンロや冷蔵庫を使えば,ガス代や電気代がかかりますから,何の代償もなく元に戻っているわけではありません.だから熱いコーヒーや冷たいビールのほうが,ぬるいのよりもありがたい.しかしそれはどれくらいありがたいのでしょうか? 緩和ビールは冷たいままで,コーヒーは熱いままでいるこ