メロディミシン
カタカタ カタカタ
本来のミシンの音は趣があって良い。
ただ、足踏みミシンなどは、場所を取るうえ、使うのにコツがいるので、若い人は敬遠していた。
そんな中、電動ミシンが登場。
コンパクトで使い方も簡単な電動ミシンはあっという間に普及していった。
しかし一方で、ミシンの使用による騒音が問題になり始めた。
夜中に低く響く振動と機械音は、近隣住民の睡眠を妨げた。
そこで、画期的なミシンが発明された。
その名も「メロディミシン」。
ミシンを動かしている間、美しい音色を響かせるという。
ボリュームまで調整可。
返し縫いをすると、メロディも逆再生になり、不協和音を奏でるというのが欠点だ。
騒音防止になるということで、すぐに一般家庭に普及した。
しかし、しばらくすると、思いもよらない弊害が起こり始めた。
ミシンをかけていると、その美しい音色に浸りたくなり、だんだんとボリュームを上げてしまうのだ。
それはやはり、ご近所への騒音になってしまった。
社会問題にまで発展し、「メロディミシン」は1か所に集められ、人里離れた縫製工場で使われることになった。
縫製をする従業員は、音量のボリュームアップを避け、耳を守るために、ヘッドホンをしなければならない。
1週間もすると、その辺鄙な場所に建つ縫製工場の周りに、人が集まり始めた。
世にも不思議で美しい音楽が聴けるというのだ。
たくさんのミシンを一度に動かすことで、返し縫いで響く不協和音がかえって不思議な雰囲気を醸し出し、どこにもない音楽を作り出している。
癒しを求めて、訪れる人は後を絶たない。
やがて、工場の周りには広場ができ、コンサートホールのようにたくさんの椅子が置かれるようになった。
今では、こんな看板が立っている。
「どうぞ、ミシンの奏でる音楽に耳を傾けてください。
心のほつれ、破れが癒されることでしょう。」
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