TGR札幌劇場祭2020・俳優賞選考過程における、私的上位エントリー俳優について/男性編

1.明逸人さん(OrgofA 3rd.act 『異邦人の庭』)
2.梅原たくとさん(ELEVEN NINES『太陽系第三惑星異常なし』)
3.有田哲さん(ポケット企画『渇き、瞬き』)

温水元さん(弦巻楽団×北海道大学CoSTEP 『インヴィジブル・タッチ』
菊地颯平さん(ELEVEN NINES『太陽系第三惑星異常なし』)


自分が思う《良い役者の条件》のひとつに、《演じているのが誰かはわかるのに、役柄そのものにしか見えない説得力がある役者》というのがあります。または作品によって印象が随分と変わる役者さんと言い換えても良いかな。その代表格が、明逸人さんです。明さんを生の舞台で観るのは三度めです。最初は陪審員役。二度めは優しい心をもった介護ロボット。そして『異邦人の庭』での一春。普段Twitterなどで見せている素顔の明さんとはどれも違いました。今回は特に一春の苦悩、逡巡、躊躇い、戸惑いが、台詞からではなく表情を含めた身体じゅうから滲み出しており、その舞台に立っているのはまぎれもない一春という人間でした。
明さんの演技を観るまで、俳優賞候補のトップを走っていたのは、梅原たくとさんでした。
梅原さんの役柄は、地球を守るエリートたちのひとりであり、イケメンであり、気持ちの良いヤツでありながらも、人類滅亡の鍵を回しかねない、まさにキーマンの役でした。舞台上の梅原さんは確かにエリートで、憎めない性格のイケメンでありながらも、(ああ、コイツなら全てをブチ壊しかねないな)と思わされるほどの残念なヒト感を滲み出していました。昨年のTGRで観た梅原さんは、若手筆頭及び牽引役といった勢いがあり、その演技にも好感を持ったものですが、今回はもう「若手」などと呼んではいけない、新たな演技派俳優の登場を知らしめたと思いました。
梅原さんと同じ舞台に出ていた菊地颯平さんをここで記しておきたいと思います。

菊地さんもまた、昨年のTGRから更なる成長を見せてくれました。「市川哲也という男が実際に居たとしたら、まさにこういう男なのだろう」と思わされる存在感溢れる演技でした。
その梅原さんと菊地さんの刮目すべき活躍を抑えたのが、同じELEVEN NINESの明さんだったことは、もちろん残念なことではなく、次世代の躍進と共に、ベテラン勢が感じさせてくれる極上の円熟味を称えるべきでしょう。

円熟といえば、温水元さんです。
わたくしにとって温水さんは、棚田満さんや長流3平さんと並ぶ極上のエッセンスであり、スパイスであり、家作りでいうところの柱を支える基礎のような存在といった印象です。かといって隠れて見えないわけではなく、柱を引き立たせつつ自身の存在もしっかり光らせるところが素晴らしいわけなんですが、今回は若い人たちの活躍が素晴らしかったことから、ご本人にとっては遺憾でしょうけれど一歩退いていただきました。

そこにきて急浮上、というわけではなく、とっくにベストスリーレベルで待機していたのが有田哲さんです。
『渇き、瞬き』は、表現方法の路線をいくつか違えたら、とてつもなく悲劇になります。そのとてつもない悲劇を、より身近に、より感情移入しやすい物語へシフトさせていたのは、脚本演出・三瓶くんのコンダクターとしての手腕であり、そして有田さんという、稀有なキャラクター性も併せ持った、信用のおける役者の起用と演出と、有田さん自身の好演だったと思います。

最後になりますが、実際に俳優賞を受賞された戸澤亮さんについては、異論はありませんでした。主役を演れば誰よりもシュッとしていて、アホのコ役なら見事なまでにアホにしか見えず(褒めてます)、『鈍行』では少ない出番(要所)ながら、その要所要所とラストを見事に締めた力は見事なものでした。


次回、女性編です。