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新釈・花神

 なんや、えろう寒い思うてたら……ワシ、死ぬんかいな……。


 ワシな、ぎょうさん金持っててん。

 集め方はな、宗教みたいなもんや。

 これに限る。儲かるでぇ。

 客はアホばっかしやったさかいにな。

 貧乏人だまくらかんしたんとちゃうで。

 金持ちや。いや、小金持ちやな。

 ワシより悪どい商売で成り上がった奴らや。

 政治家もおったで。

 だまくらかすのは簡単やった。

 ワシな、オバケが見えんねん。

 ウソちゃうで。ほんまや。

 小汚い人間には小汚いオバケが憑いとんねん。

 おしゃべりのな。

 聞きもせんこと、なんでもようけ喋るでぇ。

 ワシはオバケに聞いたままを、小出しにして憑かれてるヤツに教えたんねん。

 誰にも見られん思うてた悪事、オバケだけは見とんねんからな。
 皆、真っ青や。笑うでしかし。

 んで、こう言うねん。

 このままやったらあかんで。ワシんトコの神さんに全部任せるか? て。

 あとは、ほんのちょっとだけ、ええ方に転がるように耳打ちしたんねん。

 皆、ワシが言わんでも金持ってくるわ。

 な、これやったら簡単に儲かるやろ?

 ぎょうさん集まったわ、えらいぎょうさん……。

 でもな、今は一文無しになってしもうてん。

 なんでかってな、ワシが金持ちになったら、やろう思うてた事あってん。

 全国まわってな、あちこちに孤児院やら老人ホームやら、建てよう思うててん。

 ウソやと思ってるやろ。

 ウソやないで。

 ワシな、若い頃にな、そういうトコで働いててん。

 福祉いう仕事が好きでな。

 身分も学も無いから、便所掃除とか庭の世話とかしかやらして貰えへんかったけどな。

 せやけどな、福祉いうもんに関わってるからいうてな、ええ奴ばかりとは限らんねん。

 アホが作ったとこなんかワヤやし、儲けよう思うて商売でやりよるから、そんなトコ入ったら、ただでさええらい目に会うたモンがもっとえらい目に会うねん。

 見とられへんかったで、ホンマ……。

 せやからワシな、最高のホーム建てよう思うたんや。

 金さえあれば、ええ建物が建つし、ええスタッフも揃えれるし、

 困ったことあっても、金さえあれば誰にも頼らんと、誰にも借り作らんとやってけるしな。

 でな、でな、いざそれを始めよう思うた矢先にな、金、騙されて、ぜーんぶ持ち逃げされよってん。

 一人だけ信用しとった奴がおんねん。

 ソイツにはオバケが憑いてへんかってん。

 せやから大丈夫や思うててん。

 今思うとな、オバケすら憑かれん、ひどい奴やってん。

 訴えようにもアカン。きれいさっぱり、掠め取られたわ。

 ワシ、騙すのうまかったけど、騙されるのもうまかったんやな。

 学無い言うんは、こういうトコに出んのやな。

 それからやな、ワシにオバケが、ぜんぜん見えんようになったんは。

 神さんのバチが当たったんやろな。

 最後は、さっきの様や。

 クソ寒いのにダンボールの家住まいや。

 ワシの思い出話はここまでや。

 死神はん、話聞いてくれてありがとう。

 あんた男前やな。若くてバリッとした背広着て、ええ車乗ってるしな。

 こんな小汚いジジイ乗せたら車も汚れるやろ。

 堪忍やで。

 死神はん、ひとつ聞いてもええか。

 あんな、ワシ、死んだらどこ行くねや。

 やっぱり地獄かの……。

 ホンマかいな。天国に行けるんかいな、ワシ。

 ……せやけど、せやけど、天国で何したらええねんワシ。

 この世で悪いコトしてきてん、せめて死んだらあの世でええことせなアカンやろ。

 せや、出来たらでええから、庭の世話させてもらえへんやろか。

 この世ではあかんかったけど、あの世で花咲かせたろ思うねん。

 ん。なんや。窓の外がどないしたんや。

 おうおう、なんぞアホがおるで。

 あのアホ、ワシの金持ち逃げしたアホやないか。

 おうおう、ワシの乗っとるんと違うて、えらい汚い車に乗っとるのう。

 ほうか、死んだんかあのアホも。

 地獄に行くんか。ええ気味や。

 地獄の沙汰も金次第ぃ言うけど、そうでもないんやな。

 一文無しのワシが天国で、金持ちのアホが地獄とはの。

 なんやて。

 あのアホ、ワシを騙したあとに他のもっとアホに騙されとって、一文無しになっとったんか。

 知らんかったわ。当然やけどな。

 アホらしなるわ……ワシ、ずうっとあのアホ、恨みっぱなしやったさかいに。

 あいつもな、昔はええ志、持っとった思うのにな。

 アホらしなるわ、ホンマ……。

 死神はんな、もいっこお願いあんねんけど、聞いてもらえへんやろか。

 ワシが、あの世でやりなおすよう説得するさかいに、

 あのアホ、これに一緒に乗せたったらアカンやろか……。


  了