アルバイト応募活劇

休み過ぎて社会復帰したいと思わなくなっている。
それに対して、危機感も抱かなくなってきている。
最近は自分が社会復帰して職場で働いている想像もつかない状態に。
しかし、それはまずいことはわかっている。
なので一年以上冬眠状態の脳と身体に鞭を打ってでも働かなければならない。
ということで、アルバイトを探すことにした。
アプリで求人広告を見る。
サービス業、清掃、販売、製造など、いろんな職種を見て回るがどれも仕事でミスをした時の悪い想像しかできない。
普段は何事にも自信がないくせに、働いた先で迷惑かけることに関しては自信しかない。
逃避に拍車をかける都合の良い自信だ。
「誰しも生きていて誰かしらに迷惑はかけているもんだよ。」
なんてことを言われるが、実際に迷惑をかけられている人の懐は皆んなが皆深いわけではないし、むしろ割合では嫌悪感を抱く人の方が多いだろうし、この歳になってするミスを周りは、「まだ社会の新人だから」なんて目線で見るわけがない。
「この歳までなにやってたんだ。はみだし者が。」
という意見が真っ先に出るのが素直な感想だと思う。
ある程度の歳になってからのアルバイトは世間の目が渋くなっていて志望動機が「社会経験を積むため」程度の理由ではもう許してくれないだろうし、
それなりの訳ありの人間が応募してきたと採用側は身構えるだろう。
まあ、そんなこと言っても自分は訳ありの人間なので素直に社会に申し訳ないという顔をして応募する。

求人広告を見ていくと駅中の八百屋の広告を見つけ、スクロールしていくと「久しぶりに働く方も大歓迎!」という今の自分に向けて書かれたのではないかと意識が駆り立てられる文字が書いてあった。
さらに、業務内容は「品出し、野菜の切り分け」と書いてある。
病院の先生に接客業はなるべく避けるように言われていたので広告の文言と業務内容は自分にぴったりだ。
久しぶりにアルバイトに応募するのは軽く汗をかいて背中にピリピリと痺れが走るほど緊張したが応募フォームに名前、電話番号などを記入し、自分の人生を変えようという思いと共に親指で「応募する」のボタンを押した。

応募ボタンを押した直後から、押してしまったという思いと何かがおこりそうという思いが同時に湧いて久しぶりに身体がフワフワしてスリリングな気持ちになった。
まあ、ただアルバイトに応募しただけなんだけど久しぶりになればなるほど、応募することに抵抗感が湧く。
それから、いつ店から応募した事に関しての電話があるのだろうという考えが頭の片隅にずっとあって、首の後ろのあたりがずっとヒヤヒヤしていた。

次の日、昼飯を食べ終えてゆっくりしていると知らない番号から着信があった。
自分の携帯電話は買った意味があるのか疑いたくなるほど普段は連絡がこない。
これはよほど自分に用がある人間からの連絡だ。
だとすれば昨日、応募した店からの電話だとロジック思考の人間ぶって推測し電話に出た。
見事、八百屋からの電話だった。
電話に出るとすぐに、応募した本人だと確認をとり、住所、これまでの職歴などを話し穏やかな電話面接が始まる。
しかし、話していくと求人広告には裏方作業を記載していたが、実際は接客だけを募集していたらしく話が合わない。
雲行きが怪しくなってきた。
自分が品出し、切り分け作業だけをしたい事を言っても、今は人手が足りていることを念押しされて希望を流されてしまう。
希望の刀を振っても受け流される状況。
向こう側の「レジ作業など接客がメインになります」の繰り返しに、ここで働きたいという気持ちが折れてしまった。
そのタイミングで店側に「一度、考えさせてもらいます」と言われ、電話を切った。
この場合の「一度、考えさせてもらいます」は「今回は縁がなかった事に」と同意語だ。
店側が振り抜いた刃が見事に自分の首を捉えた。
ぼくは「参りました」と言って頭を下げる。
スタートに失敗した。
やはり社会復帰は厳しいかもしれないという気持ちが取り巻いた。
しかし今回の応募で収穫もあって、一度応募する前より一度応募した後の方が、次に応募する心持ちが軽いような気がしている。
そして、次から次へと応募したくなっている。
言わば応募ジャンキーだ。
この応募する気持ちの波に乗り、次の希望する店へ応募したいと思う。
気持ちは前向きだが、現実は後ろ向きだ。



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