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「ジャックと悪魔」

ハロウィン記念の会話劇です。音声版はこちら


「嘘つきでずる賢いジャックとは、お前のことか?」
「嘘つきでずる賢い、か。随分な言われようだが、たしかにオレがジャックだよ」
「そうか。それなら話が早い」
「オレに、一体なんの用だ?」
「あぁ、お前の魂をいただきに来た」
「何だって?」
「だから、お前の魂を今、ここで、奪うと言っているんだよ」
「魂を奪うだって? お前は…悪魔か?」
「あぁ、いかにも」
「ちょ、ちょっと待て。どうしてオレの魂を?」
「嘘つきでずる賢いお前は、多くの人の恨みを買いすぎた」
「そんな、バカな」
「心配するな。ほんの一瞬のことだ」
「いやいや、オレはまだ死ぬ気はない」
「そうは言っても無駄なこと。これはもう決まったことだ」
「そ、そんな…」
「今さら後悔しても遅い。嘘つきでずる賢いジャックよ」
「くっ…。そ、それなら、最後にひとつ、オレの願いを聞いてくれるか?」
「最後にひとつ、か。まあいいだろう。言ってみよ」
「あの木になっているリンゴが食べたい」
「あの木に登れと?」
「そのくらいの慈悲をかけてくれてもいいだろう?」
「ふむ。いいだろう。しばし待て」
「あぁ、ありがたい」

「な、何をしている!」
「こうして十字架を木に彫ってしまえば、あんたは身動きひとつ取れなくなる。なぁ、そうだろ? 悪魔さま!」
「おのれ! 騙したのか」
「ははは。オレは、嘘つきでずる賢い男だからなぁ」
「くっ」
「約束してもらおう。オレの魂を奪ったりしないと。金輪際、二度と!」
「…仕方がない。約束しよう。私はお前の魂を取らない。金輪際、二度と、未来永劫な」
「ありがとうよ、悪魔さま。感謝するぜ」


「お前は、ジャックか。随分と久しぶりだなこんなところで出会うとは」
「あのときの悪魔か」
「いかにも。お前がここにいるということは、現世での命は…」
「あぁ、寿命が尽きたらしい」
「して、なぜこのような場所にいる?」
「現世でのオレは決していい人間じゃなかったからな。天国には入れないらしい」
「まあ、自業自得だ」
「仕方ないから、地獄へでも行こうかと思ってな」
「そうか、それは残念だな」
「残念?」
「あぁ。お前は地獄へも入れない」
「どういうことだ?」
約束したろう? お前の魂は二度と取らないと。だから、お前を地獄に連れて行くことはできない」
「じゃ、じゃあ、オレはどこへ行けばいいんだ」
「さぁな。どこへも行けず、彷徨い続けるんじゃないか」
「彷徨い続ける? いつまで?」
「いつまでもさ」
「永遠に?」
「あぁ。そうだ、お前にこの灯りをやろう。果てない旅の唯一のともにな」


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