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愛する。~12人の私と路地裏のセナ~

「12人の私と路地裏のセナ」を見てきたよ!

2022年8月14日。劇団6番シード第74回公演として、中野 テアトロBONBONで上演していた舞台。(8月10日(水)~8月16日(火))
松本陽一さん脚本・演出。

観劇ヤクザの友人に誘われて会場に向かったけれど、首都圏に台風が上陸するということで行きは大雨。
おいしそうな居酒屋さんが並ぶ、中野のおしゃれなレンガ通りを通りながらサンダルはずぶずぶのびしょびしょになった笑


ここからネタバレを含むよ!


わたしから見えたあらすじはこちら

日々路地裏でタップダンスの練習をする日雇い労働者の田島。
彼の中には12人の人格がいる。これまで出会った人々を切り取って、彼の中に住まわせていた。
今日もタップダンスを踊っていると、セナと名乗る少女が現れる。
セナとの出会い、彼の中に住む12人の人格たちとのやり取りを通して、田島は自分の夢を叶えようと進んでいく……。

ここから感想

当日のチラシを見た時、「うわっ登場人物多いかも。覚えられるかな……」と思っていたけれど、全然!全然!そんなことなかった!
どのキャラもかわいいしかっこいいし見どころがあって、気付いたらどのキャラも好きになってた。何人かだけ心の中から抜粋。

麗しの君、お顔が好きだった~~~。

田島の中の12人のうちの1人。保護人格。
歩き方も喋り方もピシッとしていて素敵だった。ジャケットの下から見えていた薄いピンクの布、歩くたびにひらひら揺れてきれいだったなぁ。
学級委員長タイプというか、実際にいたらちょっと煙たがられるかも。でも話をまとめたいときとかいてくれないと困っちゃうよね。みたいなキャラ。
友達からみせてもらったフォトブックに、「容姿端麗だけど、そう見られることを嫌がっている」みたいなこと書いてあって納得しちゃった。確かに誰かに媚びるみたいな態度、一切してなかったもんね。それを読んでまた一層好きになった笑

橋の上に立つ人、怖すぎる。

田島の中の12人のうちの1人。破壊人格。
こ、こわかった~。サイコパスっぽくて感情の振れ幅があり得ないくらい大きな人。だからこそ他の11人とも衝突するし、腫れもの扱いされてるし、主人格である田島でさえ制御できない。
途中でこの人が女子小学生の人格をそそのかすシーンがあったのだけれど、舞台観ながら「もう……やめてあげてください…」という気持ちになった。
田島とこの人の対話のシーンも怖かった。嫌だった~。橋の上に立つ人さんの、「今!俺を!見ろ!」みたいなパワーが強すぎて目が離せなくなっちゃうくらい。
田島が夢に向かって頑張っていく局面でも、正直、「橋の上に立つ人さんは出てこないでくれ……」って祈っちゃっていた。彼が出てくると田島にとって悪い方に転がるからね……そして祈ると出てくる。笑
私が見に行った回ではこのキャラを演じる野口オリジナルさんがカーテンコールのコメントをしてくださったのだけれど、劇中それほどに怖かったのに、素で話すとちょっと面白い良い人でびっくりしちゃった。
橋の上に立つ人さんの感情の振れ幅が怖すぎて、野口オリジナルさんは良い人に見えたのだけれど、「ほんとはどっち……?」って気持ちになった。

どうしても書きたい人だけ大きく抜粋したけど。

ほんとに。どのキャラも好きなんだよね。

羽を持った靴子さんは本当に羽が生えているみたいに軽快なタップダンスを披露していて、ほっとくと勝手にタップを踏んでいるからタップ好きなんだろうなぁって思ったし、

スズメちゃんはひたすらかわいかったし。ぶりぶりの女の子キャラってあんまり得意になれないことの方が私は多いのだけれど、スズメちゃんは一切そんな気持ちにならなかった。可愛かったねぇ。うちおいでぇ。

ケチャップ村田は人を笑わせることが好きなんだろうなって思った。現実で田島とは少しだけしか接していないと思うのだけれど、田島が友情人格として置いたのも理解できる。なんか安心するもの。ああいう底なしに明るい人がいてくれると。あと彼のコメディアンになりたい夢が叶ってなくても腐ってなくてよかった。

プロフェッサーK、いいよね、ああいう空気読めないけどここぞとばかりに自分を出そうとしてくるキャラ。心理学の専門家、ってポジションの人がいてくれるから「多重人格であること」を各人格は受け入れられたのかなぁ、とも思う。みんな雑に扱っていたけれど、多分この人に救われた場面が多々あったんだろうな。

下世話な隣人さん。カレーにハニーマスタード!まずそう!どんな時もスズメちゃんのこと守ってた。おせっかいおばさんなんだけど、全然図々しくないの。つい頼りたくなっちゃう。

靴磨き男さん、羨望人格ってチラシに書いてあって納得しちゃった。「靴を磨きたいんだ」って胸を張って言えるまっすぐさに憧れたんだろうなぁって。田島自身もタップダンスがしたいから、「靴」っていうところに何かのシンパシーを感じていたのかもしれないしね。
1番、人らしいな。って思ったのがこの人な気がする。まっすぐだけど、弱いところもちゃんとある人。ワンピースのルフィとか、ブリーチの一護とはまた違った主人公っぽさあった。いや主人公じゃないんですけど。

沈黙は金さん。あだ名!?じゃなくない!?笑
チラシには嫌悪人格って書いてあった(嫌悪人格はこの人だけなんだね。)けれど、田島さん、この人にずいぶん助けられてるよねぇ。田島さんだけじゃできないことも金さんがいっぱい話進めて(余計なこともしてたけど)くれてた気がする。私はこの人好きだったなぁ。ずるいも上手も兼ね備えた大人、って感じ。

通りすがりのヤクザくんさんの男気。かっこよかったねぇ。ヤクザくんさんがお金を貸して、それを金さんが上手に回して……みたいな感じで、金策を立てるためだけの人って思っていたけれど、田島さんに火をつけてくれるシーン、打たれた。

邪悪さん、この人も最初怖かったの。この人が場をかき乱していくんだろうなぁって思っていた(破壊人格って書いてあるし。)ら、よっぽど田島さんのことを考えての発言なんだなぁって思う部分が多々あった。”やりたいのはわかるけどリスクもあるよね”っていうときの、リスクをちゃんと伝えてくれる人、って感じた。それって田島さんのことを大切に思っていないとできないんじゃないかなぁ。無根拠な「大丈夫だよ!」が欲しい時と、「ほんとに大丈夫?根拠は?」っていう責めが欲しい時があるよね。邪悪さんは田島さんに後者を言ってくれる人。でもそういう役回りって嫌われちゃうよね。

横田先輩は一緒に働いたらめちゃくちゃ良い先輩なんだろうな~って思った笑
ちょっとヘマしたらちゃんと怒ってくれて、でも応援するところは本人に気付かれないように応援して。そんなの、理想の先輩じゃない。素直じゃないのよね。でも強い人。

すばるさん!すばるさんかっこいい!恐ろしいラスボスかと思ってたよこの人!
かつて夢を追っていたから、夢を追う人を応援したいの!って言ってくれる人。そういう人って他の人の夢に「こんなもんかよ!」みたいに厳しいことを言いがちだけど、彼女の生活領域を侵されない限りは見守ってくれる。舞台のオーナーさんがこの人じゃなかったら田島さんはきっと夢を叶えられてないよね。

のっこちゃん。お友達に欲しい人ぶっちぎりのNo1。愛すべきアホ。でも通すべき筋はちゃんと通して、生き抜く力もあるんだろうなって思った。日雇い労働者がよく行けるカレーショップ、そこでアルバイトをしている女の子。この子も充足した境遇ではないのだろうなと思った。でもそんなのを感じさせない明るさ!

木下五郎さん。ヤクザさん。笑
ヤクザさん、あんなにキメキメでかっこいいし強面の表情作るのに、突然トムとジェリーみたいな追いかけっこは始まるし、飼い猫を脅され続ける(途中からは脅されてると勘違いする)し、この人は怖い顔して怖くない人だ!この人は安心できるぞ!って思った笑

セナぴ。勝手にセナぴって心の中で呼んでた。それぐらい可愛い。可愛いし、好きになっちゃう。可愛いのにお高く留まってなくて、変顔もするし、1人の時はちょっとふざけるし、愛嬌がある女の子。田島さんやすばるさんが心に留めたくなっちゃう気持ちもわかる。

最初と最後で一番印象が変わったのは田島さんだった。

最初に出てきたときは、華のないキャラクターだなって思った。
日雇い労働者だし、勤務に遅刻してるし、なんか遅刻の言い訳ぼそぼそ喋ってるし。12人の人格のほうがよっぽどしっかりしてるよ?って思ってた。
なるほど、だから12人も人格作って、自分がつらいことをその人たちにお願いして、自分はつらいことから逃げたいんだなって思った。
でもさ、物語が進むにつれて、どんどん田島さんの意思が見えてくるんだよね。
「僕の意思だ!」とか、「これは僕の意思じゃない!」とか、やりたい、やりたくないとか、守りたい、逃げ出したいがどんどん見えてくる。
タップダンスに惹かれて、靴を買って、練習して、舞台に立ってみたいって夢をもって、舞台を借りてみて、当日に向けて、うまくいったり、いかなかったり。
最初は12人の人格って田島さんが自分のライフイベントから逃げるためとか、自分を擁護するために作ったものかもしれないって思ったけれど、その人格たちに少しずつ田島さんが背伸びさせられて、それに負けないぐらい田島さんも目の前のことに向き合っているな、って思った。(各人格に背伸びさせられて、って思っていたけれど、その人格を動かしているのは田島さんだから、田島さんの深層心理としては「やりたい」があったのかもしれないね。)
田島さんの田島さんたる所以、が見えてくると、もうそんなの好きになっちゃう。頑張れ、戦え、頑張れ、って思ってた。

ここからは妄想の妄想だけど。
田島さんって自分にとってつらい局面を「あの人だったらこう乗り越えてくれるかもしれない」っていう願いを込めて人格を表に出しているのかな、って思っていて。
だから田島さんの中の人格ってみんな愛されキャラだし、愛される余地がある人たちに見えた。田島さんが、「自分なんて」っていう悲観した気持ちから、「あの人なら」ってしているとしたら、田島さんだって十分周りから愛されているじゃない!って思った。
最終的に各人格のモデルの人たちも田島さんの夢を応援してくれたし、人格に取り込んでいない人たちだって田島さんのことを好きだから応援するんだろうなって思いながら見ていた。
各キャラクターが魅力的で、その人たちに翻弄されながらも自分の人生を歩む田島さんがいたからこそ、田島さんのことを好きになれた。
だから、田島さんも自分のことを好きになってほしいな、って思った。田島さんが、すごく魅力的だった。
愛されているんだよ、あなたは。

おわりに

これを書いている今は舞台を見終わって次の日の夜。
昨日見て、見終わった段階ではここまで書けなかったかもしれない、って、今思った。みんな可愛かった~~~田島さん好きになった~~ぐらい。
たぶん、1日感想が熟成されて、各キャラクターたちが自分の中に住み始めてくれたんだろうなって思う。
げらげら笑うようなファニーさとか、キャッチーなキメ台詞とかはないけど、ふと見終わってから思い出してぼーっとしちゃう舞台。でした。

ありがとうございました。

ゆう

12人の私と路地裏のセナ。チラシ可愛い。


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