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深海と私

二階の窓からは青い月が見える。
私は誰ともしゃべりたくないとき、
自分の部屋にうずくまるようにしている。
別に、家には私しかいないのだからどこにいても誰ががしゃべりかけてくることはない。
けれどなんとなく
明確なテリトリーが欲しくなるのだ。
今にも家具がしゃべり出しそうな
そんな雰囲気が家中に充満する。
しかし自分の部屋だけは違う。
時間が止まったかのように錯覚するほど
緩慢に流れる空気だけが私を納得させてくれる。
全てが私の思うがままだ。
少し頑張れば手を触れずに本棚を
動かすこともできるし、ゴミ箱だって
手を叩くだけでこちらによってくる。
なんて気持ちが良いんだろう。
でもある時私は気づいた。
快適な空間は人を腐らせる。
大量の水がひまわりの根を侵食するように。
その恐怖が行動力のガソリンになった。
外で生活するのはつらい。
けれど内に自分を埋め込むのはもっとつらい。
そう思い、今は自分の部屋にあえて
入らないようにしている。
どうしようもなくなった時を除いて。
半年ぶりに入った部屋は
湯船のように暖かかった。
ここで一生を終えてしまいたい。
そう天井を仰いだ瞬間
真っ青な月が目に飛び込んできた。
握り潰されるような悪寒に
全身が閉じ込められた。
まるで真空に浸かっているみたいだ。
今すぐにこの場から立ち去らなくては。
のそのそと部屋を出ると
一匹のカメレオンがこちらに向かって
会釈をしていた。





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