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裏切りの断面に私

『どれだけ自分を騙せるか』

自分に飽きる事がある。
日々の習慣や主観に従い過ぎている様な気がしてしまって。
時折、人間みたいだなと思っては息を止めてみたくなる。

普段は何気無く喫茶店に入っては、即座にメニューの中から珈琲の載っているページだけ見て【ブレンドコーヒー】の文字を見付けては、それを注文する。
喫茶店の【ブレンドコーヒー】は、その店の名刺みたいな物だと思っていて、僕は喫茶店に名刺を受け取りに行っているだけなのかもしれない。
話が逸れたけれど、その習慣がへばり付いた自分に嫌気が差して飽きてしまう瞬間がある。

そんな時に、裏切ってみる。

「レモンスカッシュをお願いします。」

完全にコーヒーを飲む頭、口、胃になっている自身に綺麗なカウンターパンチ。
『なんで?!』となる僕を、くすくすと笑う僕。

その瞬間、よし今回は巧く騙せたぞ、と心の中で小さく握りこぶしを作っては妙な達成感と清々しさ……例えるなら、平々凡々な内容の台本通りに演じてそのまま静かに笑い声も啜り泣く音も無く終演を迎える所だった舞台を最後の一幕で即興のアドリブを入れて拍手喝采を得られた様な脳が弾ける様な気持ち良さだ。

コレを不定期に、しかしある程度の頻度で行う事でより日常という畑を耕し感情を豊かにして過ごす事にしている。

時には自分を裏切り過ぎて失敗する事もある。

普段なら言わない様な事を敢えて言っては相手の反応を伺ったりする際、本気で怒られたり軽蔑されたりする事があったり……
いつもなら絶対に入らない様なお店に入ってみては、視界が奪われる程の煙草の煙とスピーカーから大音量で流れ続けるハウスミュージックで(※自分は喉と耳が弱い)死にかけたり……

ただ、巧く自分を騙す事が目的ではなく、あくまでも『どれだけ自分を騙せるか』という事が主な目的なので、失敗とは思いつつもよしよしとやはり心の中でにやりと笑う僕が居るのだ。

自分の知らない自分が、まだ何処かに隠れている。

そんな事をずっと思いながら生きている。

そしてまた今日も飽きた先から裏切ってみる。
その切り口の断面を覗いて、未知の自分と目が合う事に期待を膨らませながら。

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