下を向いて歩こう
『雨の声が落ちたなら、それは気持ちの良いファンファーレ』
後ろは振り返らず、ネガティブな思考や言動を避けて、いつも笑顔で頑張りましょう。
って、たまに自分を鼓舞したりする。
適度にそうしないと、本当に沈み込んでいって気が付いたら地獄に足が着いてしまいそうで。
雨。
さぁさぁと雨の音が聞こえると、途端に嬉しくなる。
それは"許される日"が訪れたという合図だからだ。
雨の日には誰もが傘をさしては、前や……ましてや上などは見向きもせずに俯き気味で目線を落として過ごす事になる。
つまりは、下を向く事が"許される日"であり日常に不意に音を立てて訪れる非日常。雨が降るという事は、世界を一瞬で変えてくれる魔法をかけられる事だ。
普段なら薄暗い中で俯いていたら、周囲から心配されてしまったり不気味な印象を与えてしまうけれど……
『雨の音が落ちたなら、それは気持ちの良いファンファーレ』となる。
誰もが俯いて、下を向いて行進する。
悲しみや苦しみを、雨が流してくれる……なんていうのは嘘だと思う。
実際は、悲しみや苦しみを雨と一緒に流しても良い、許されるから……皆が無意識に俯いて下を向いて雨に溶かしているのだと思う。
僕だけが、それに気が付いている。
でもそれでいい。
皆が知らず知らず、雨に助けられているという事。気が付かれていない事、雨はとても喜んでいた。雨はいたずら好きだから、皆がいつも雨が降りだしては困ったり不貞腐れたりする姿を見ては笑っていた。嬉しそうに。
それを見ては、僕も同じように笑っている。いつも。
雨の音が落ちたなら。
さぁ、一斉に皆で下を向いて歩こう。
人々の悲しみや苦しみが溶けて出来た水溜まりに、真ん丸の街灯が反射して、満月みたいな未来が少し光って見えるよ……。
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