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我が家のサンタの眠る場所

クリスマスは何もしたくない。
そういう主義を持っている友人がいる。
仕事も有給休暇を使って毎年休んでいる。
別にクリスチャンではない。

理由を聞いた事がある。
別にキリスト教でもないのに、
使命の様に毎年何かする事があるのか、と。
返事は面白味のないもので、
特に何もしたくないから、としか聞いた事がない。

年によっては平日ど真ん中にクリスマスがくる事もある。
だがその友人は別に連休になるから有給を使っている訳でも無いので、
そういう年でもクリスマスの一日だけ有給を使って休んでいた。

私は変な人間が好きなので、
クリスマスが来るたびに彼女の事を思い出していた。
平日がクリスマスの年に自分は出勤していると仕事をしながら、

「アイツ今頃休んで何してんだろ」

と密かに羨んでいた。

だが今年のクリスマスイブは休日、
しかも三連休の一部ときた。

どうせならクリスマスも休んで四連休にしたろ。

そんな事を思って有給を消化し、
今年は彼女のみならず、私も仕事は休みになり、
二人同時にクリスマスは休暇という珍しい年に。
そして思わずFacebookにぶち上がったテンションで

「今年は有給使ってクリスマス四連休ー!
 ひゃっふううううううううう!」

と頭が沸騰しきった日記を書いたら、

「今日何してんの」

と連絡を寄越してきた友人がいた。
クリスマスの午前七時、
先程説明した彼女である。
最初の返事を「特に何も」と返した所からやり取りが始まった。

「アンタ、結婚したの?」
「え?まだ。そっちは?」
「アタシもまだ。」

暇でしょ、ちょっと会おうよ。

そう私に持ち掛けた彼女とはもう7年は会っていない。
最後にあったのは誰かの結婚式で、
それ以来私達はロクに接触する機会が無かった。
他の友人達が結婚式を挙げてくれないせいだ。

でも彼女が気付いたらしい。
別に結婚式じゃなくても会える事に。
私がFacebookに馬鹿な近況を書き込んでいるせいで住所は彼女に知れていた。
アンタ今関東に住んでるんでしょ。
私も一年前に名古屋から引っ越してきたの。
どこかで会おうよ。

友人との七年振りの再会。
東京に住んでる?
え、ちょっと外れたとこ?
アタシもアタシも。
じゃああそこの駅にしようよ、丁度中間だし。
駅の周りに何もない?
良いじゃないそんなの、コップが二つと紅茶があれば十分でしょ。

七年も会っていないもの。
話すだけで手一杯になるに決まってるわよ。

そう言われてマフラーを首に巻き、
満員電車の時間帯を悠々とかわして電車に乗った。

出会いがしら、「なんも変わってないねホント」と言い合い、
とにかく寒さから逃げようと壁と椅子があるお店に逃げ込んだ。
昼前だったので紅茶だけでは味気ない、
お好み焼きでも食べへんか。ええやんけそれ。
そんな調子で二人揃ってお好み焼き屋の暖簾をくぐった。

お互いもう良い歳である。
Facebookを開けば結婚した知り合いが子供を連れて何処そこへ、
旦那と一緒にどこかのホテルレストランへディナーへ、など、
独身の身にはまるで縁の無い行動の報告が乱射されている。
そんな事を妬む話題をしても詮無い事なので、
自然と話はお互いの仕事の内容へと照準を合わせた。

私は社会人生活でまるで漂流者のような人生を送っているので、
会ってない七年間で渡り歩いた会社の事を話せば、
彼女からも人生の変化を聞かされた。

「大学に入り直した?」
「そう」
「そりゃまた、どうして」
「教員免許取ろうと思って。
 正確にはその免許取得の単位だけ取った。
 でも結構時間かかったよ。」
「ひえ~……よくやったね、頭が下がる。
 でもどうして教員免許を?」

彼女は出版系の会社で学校教材の営業をやっていた。
最後に会った時にはまぁまぁ、やってるよと言った風で、
割かし悪くない環境で働いていると思っていたが、
実際はどうだったのだろうか。本人に聞いてみた。

「アタシ稼ぎ頭だったの、営業の中で。」
「へぇ!すごい」
「そりゃあね、若くて可愛い女の子が営業やってて、
 ある程度愛想よく立ち回れてたら当然の事なのよ。」
「……凄いね」
「なにが?」
「自分で可愛いって言っちゃうのが凄いなぁと思って」
「アタシ可愛いでしょー?」
「可愛い、正直」

正直この友人はかなり可愛い部類に入る顔をしている。
大学時代も彼女に思いを寄せていた男友達を私は数人知っている。

「でもね、働いてて判ったの。」
「なにが?」
「アタシが若くて可愛い女の子だから売れてんだなって。
 だからね、若くなくなったら駄目なのよ。」
「いや、そんな事無いんじゃない」
「そんな事あるのよ。
 私冷静になんで売れたのか考えたの。
 それで辿り着いた結論なの。
 でさぁ、今私達、もう良い歳じゃん。判るよね?」
「判る。同級生ですから」
「生き残る為には、もうこの仕事続けてちゃダメだって思ったの」
「はぁー、シビア」
「それでなんか理科系の教職が少ないからって、
 今ならそこが穴場だって聞いて免許取る事にしたの」
「なるほど教材売ってるから、ならではの情報やね」
「それで今は千葉のとある研究所で研究補佐やってる」
「なんで?」
「免許取ろうとして学校行ってる最中に研究やってみたくなった」
「………アンタ本当凄いわ」

七年の荒波が絶えず私の魂を揉んで喜ばせる。
大学時代からなんか面白い奴だとは思っていたが、これほどとは。
お好み焼きを食べながらお互いの七年で笑い合い、
時には苦労話で眉間にしわを寄せて腕を組み合った。

「ところでさ」

面白い話で体温も上がる。
お好み焼きの手助けも会って私達は上着を脱ぎ、水を口にしていた。
ちょっと、会話を緩めよう。
そう思った私がこんな話をし始めた。

「サンタっていつまで信じてた?」

何せクリスマス。
そう言えば、彼女とはこの手の会話をした事が無かった。
そう思ってスルっと口から零れ出た。

「サンタ?」
「そう、サンタ」
「はー……この話しする?」
「え、なんでよ(笑)」
「いや、多分アタシの話、期待してるようなもんじゃないよ」
「それを聞いて一層期待が高まったわ、聞かせて。」
「えー…じゃあいいよ。
 あのさ、君はどうやって貰ってた?クリスマスプレゼント。」
「サンタさんからって親に言われてウキャーってはしゃいでた」
「アタシは最初から親。
 親が、これはお父さん達からね、って貰ってた」
「あ、へー」
「サンタさんはね、うちの両親が殺したって」
「   は?」
「こんなだけど、続き聞く?」
「聞く聞く聞く聞く」
「あはは、めっちゃ言うじゃん」
「それでそれで、え?どういう事?ポリス呼んだ方が良い?」
「呼ばなくていい(笑)
 あのですね、うちの親なりの深い悩みがあったんですよ……。」
「聞かせて」
「私が物心ついて初めてのクリスマスでね、
 お父さんとお母さんが凄い静かな顔して私に言ったの。
 あのな、よしこ、サンタさんはな、
 それぞれの家に一人ずつ、別々のサンタさんが来てくれてな、
 だからこの世にサンタさんは一杯いるんだって。」
「素敵な話だね」
「ここまではね。
 でもお父さんが言ったの。
 うちに来てくれてたサンタさんはな、
 去年お父さんが殺してしまったんだって」
「えっ」
「えっ、って思うでしょ。私もえってなった」
「それでそれで」
「去年私にプレゼントを持ってきて貰う際にー、
 ちょっと家に入って来た際にお父さんが出くわして、
 それで寝ぼけてたお父さんが慌てて台所のプライパンで頭殴って、
 暗がりだったからサンタさんだと判らなくて、
 大丈夫ですか、大丈夫ですか?!って聞いたけど、
 もう息がなかったらしい」
「ちゃんとインターホン鳴らさないから」
「そしたらホラ、私起きちゃうから」
「あっ、そっか……」
「それでねお母さんも起きてきて、
 お父さんがね、サンタさんを殺しちゃったって。
 どうしよう、これが警察に判ったらお父さんが捕まっちゃう。
 よし、近くの山にこのサンタさんの身体を持って行って」
「埋めたの?」
「そう」
「ジーザス」
「だからねよしこ、
 今年のクリスマスプレゼントはお父さん達が買ってくるけど、
 それはサンタさんから貰ったんだよって皆には言うんだよ。
 もし、サンタさんをお父さん達が山に埋めたってばれたらね、
 お父さんとお母さんが警察に掴まって牢屋に入れられちゃうから」
「なんて事を子供に吹き込んでるんだよ」
「それで私、それを信じたの、大真面目に!」
「うわー、もう、なんて言ったらいいのか」
「だからそれから毎年ね、
 友達がサンタさんから何貰ったー?って言ってるのを聞いて、
 私も精一杯の笑顔を作ってサンタさんからアレ貰ったよー!って。」
「(笑)」
「でも子供って残酷なところあるでしょ。
 中学ぐらいからサンタは親だって大声で言う人が居てね」
「ああ」
「それを聞いて顔色が変わる友達もいたけどさ。
 でも私は全く別の気持ちなの。
 だって私んチのサンタは」
「山に埋まってるもんね(笑)」
「そう、お父さんが殺してお母さんと一緒に山に埋めたから、
 えっ、サンタさんが親って、えっ?ってなって」
「(笑)」
「私だけ本当おいてけぼりだった。
 絶望の顔色した人が教室に居る中で、
 私だけなんかホッとした顔なの」
「もしかしたらお父さん、サンタ殺してないんじゃないかって(笑)」
「そうそう(笑)
 でもね、こう思っちゃったの。
 あれ、これもしかして、皆で私をハメてる?
 これで私の事を炙り出して、うっかり私がさ、
 サンタさんって、本当は居ないの?
 じゃあ、お父さんはサンタ殺してないんだ!って言った瞬間さ、
 誰かが「かかったぞー!」とか言って、
 お前の家に数年サンタが入った形跡がないんだ、
 それで怪しんでいたが、やっぱりそうだったか!とかさ、
 言われるんじゃないかと思って」
「(笑)」
「ちょっとそんなに笑わないでよ、
 毎年クリスマスが来る度にどこか心の底で怯えていた私の気持ち判る!?」
「ごめんごめん、あー、
 それで君んちのサンタは結局どうなったの」
「高校生の時にね、
 いい加減、お父さんはサンタを殺してないだろうって思えて来てさ、
 長いでしょ?本当信じてたんだから、お父さんがサンタ殺しちゃったって。
 でね、お父さんに聞いたの。
 殺して山に埋めたって嘘でしょって。」
「面白過ぎるんだけど」
「そしたらお父さん、お前、山に行って掘ってみたのか?って。
 ちゃんと山に埋めてきたぞ、本当だからなっていうの。
 もーマジで私キレながら笑っちゃってさ。」
「良い家族だなぁ……」
「それでお母さんが言ってくれたの。
 よしこ、うちはね、サンタが居なくて良かったでしょ?って。」

それを聞いた瞬間、なんか頭の中がスーッと落ち着いたっていうかさ。
他の家庭がサンタがいるって嘘をいつかバラさなきゃいけなくて、
その度に子供ががっかりしたり、
気付いてたよって子供に言われて親の方ががっかりしたり。
でもうちはサンタが嘘の存在だって判っても、誰もがっかりしなかった。
寧ろ安堵と笑いがあった。

「でもお父さんは未だに山掘って来たのか?っていうの。
 サンタの話をするとさ。それがもう本当ムカついてね。」

そう話す彼女の顔は笑っていた。

クリスマス、有休をとる理由は、本当は何?
話が区切られた時に私がふと彼女にそう尋ねた。
その話を聞くと、絶対に彼女特有の理由があるに違いない、
そう思えたからだ。
けれど彼女の返事は変わらず、

「なにもしたくないから」

だった。
けれど、こう続きが付いてきた。

「何もせずにね、
 お父さんとお母さんが山に埋めたサンタさんを静かに思い出してね、
 それでお父さんお母さんありがとう、って電話したりするの。
 後はクリスマスにプレゼントとか買いに行くんだけどね、親への。
 でも今年は三連休もあったからイブの日に買っちゃった。
 だから君をつかまえたの。
 今日は会ってくれてありがとう、凄い楽しい。」
「本当?こちらこそ、声かけてくれてありがとう。
 あとさっきのサンタの話だけどさ、
 私が物書きやってるの知ってるよね?」

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