言語学的コトバの観察―フライドポテト、ポテトフライ
子供から大人まで、性別や世代を問わず、人気の高いフライドポテト。
細い棒状またはひと口サイズにカットしたジャガイモを、油で揚げたこの料理を、日本ではフライドポテトまたはポテトフライと呼んでいる。
これらはいずれも和製英語で、次のような造語となっている。
フライドポテト→フライド(Fried=油で揚げた)+ポテト(potato=ジャガイモ)
ポテトフライ→ポテト(Potato=ジャガイモ)+フライ(fry=揚げ)
※フライドポテトに関しては、英文法的に正しく、間違った表現ではない。
ただし、フライドポテト(Fried potato(es)=揚げたジャガイモ;カッコ内は複数形)は、油で揚げたジャガイモ料理全般を意味する。
日本では、マクドナルドなどのファストフードのイメージが強く、「フライドポテト」は世界共通と思われがちだが、国によってその呼び方は様々である。
アメリカ・カナダでは、フレンチフライズ(French fries)、または単にフライズ(Fries)。
日本語に訳すと、「フランス風の揚げ物」または「揚げ物」となる。
イギリス・オーストラリア・ニュージーランドでは、チップス(Chips)。
イギリスの名物料理「フィッシュアンドチップス」に代表されるように、チップス(chips=揚げたジャガイモ)は日本語のフライドポテトに相当する。
19世紀前半、ロンドン東部にフライドフィッシュ(fried fish=魚の揚げ物)が現れ、その後、付け合わせにチップス(ジャガイモの揚げ物)が加わって普及したとされる。
チップス(chips)の語源は、古英語の”chipp(=木や石の小さな断片)”に由来し、18世紀後半には「食べ物(特に果物)の薄切り」の意味でも使われるようになる。
その後、アメリカ英語では「ジャガイモの薄切り」として限定的に使用されるようになり、ポテトチップスにつながったとの説もあるが、詳しい経緯は定かでない。
いずれにしても、イギリス英語圏では、フライドポテトのことを「チップス」と言うのが一般的である。
ちなみに、イギリス英語の影響が強いインドでは、フィンガーチップス(Finger chips)と呼ばれる。
※余談ではあるが、日本で言う「ポテトチップス(=薄切りにしたジャガイモを油で揚げたスナック菓子)」は、アメリカ英語ではチップス(chips=薄切り)またはポテトチップス(potato chips=ジャガイモの薄切り)、イギリス英語ではクリスプス(crisps=カリカリしたもの、パリッとしたもの)と呼ばれる。
ところで、アメリカ英語圏のフレンチフライズ(French fries=フランス流揚げ物)の「フレンチ」から、フライドポテトはフランスが発祥国と想像する。
しかしながら、実は隣国ベルギーで誕生した食べ物と言われている。
17世紀後半、ベルギー南部の地方で、ジャガイモを短冊状に細長く切って油で揚げたのが始まりとされる。この地方では、川で釣った魚を油で揚げて食べる習慣があり、棒状の形は小さな魚に見立てた切り方らしい。
フランス発祥説もあるが、現時点ではベルギーが最初とする説が有力である。
ベルギーではフリッツ(Frietjes)と呼ぶ。
その由来は、フランス語のポム・ドゥ・テール・フリット(pommes de terre frites)。
ポム・ドゥ・テール(pommes de terre=ジャガイモ)+フリット(frites=揚げ物)から来ている。
フランスでは、ポム・フリット(pommes frites)または単にフリット(frites)と呼ぶ。
ではなぜアメリカ英語圏では、「フランス式の」という前置きがあるのだろうか。その経緯をたどってみたい。
1802年、ホワイトハウスの夕食メニューで、フランス式の料理として揚げたジャガイモが提供されたとの記録があり、また1856年にはイギリス人作家が、出版した本の中で「フレンチフライドポテト(french fried potatoes=フランス風に揚げたジャガイモ)」と明記したレシピを載せている。
こうしてアメリカでは、「フランス風の食べ物」として認識され広まっていった。
ちなみに当時の「フランス流」とは「短冊状に切ること」を意味していたようで、フレンチフライは当初、「フランス風の揚げ物全般」を指しており、肉でも野菜でも細切りにして揚げたものはすべてフレンチフライと呼んでいた。
フレンチフライが「揚げたジャガイモ」だけを表すようになったのは、アメリカのファストフードチェーンが世界中に普及して以降とされている。
日本で「フライドポテト」と言われるのは、アメリカの食べ物というイメージからこのような呼び方になったのだろうか。
ジャガイモを揚げた料理は、上記の国以外にも世界各地で家庭料理として親しまれている。それぞれの名前の由来をたどってみると、新たな発見があるかもしれない。
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