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【新古今集・冬歌6】大井川と流れる紅葉

高瀬舟しぶくばかりに紅葉葉の
流れてくだる大井川かな
(新古今集・冬歌・556・藤原家経)

 大井川は現代でも紅葉の名所。大井川の観光情報を発信している「大井川で逢いましょう」によれば紅葉スポットだけで5つあるそうです。しかも「Best」です。厳選の5カ所なんですね。

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 新古今集でも大井川を歌うのは三首目です。現代風に言えば「大井川の紅葉歌Best3」でしょうか。
 一首目の554番歌はあえて紅葉を描かず周囲の盛り上がりを歌う資宗の歌。
 二首目は古歌の響きを添えつつ水をせき止める紅葉を歌う経信の歌。
 そして三首目は高瀬舟が「しぶく」ほどの紅葉です。「しぶく」は実は決着がついていない言葉です。「滞る」の意味だと解釈するのが優勢ですが「棹さす」とする説もあります(新日本古典文学大系)。

 どちらなのでしょうか。
 大井川の紅葉の歌はこの歌で終わります。そうすると二首目で水をせき止めた紅葉が三首目でも滞り続けるのはなんだか息が詰まりそうな気がします。異端の読みですが僕は「棹さす」に魅力を感じます。高瀬舟を押し流すばかりの圧倒的物量感を言語化して大井川紅葉のフィナーレとするのです。舟を押し流さんばかりの紅葉。川をまるごと唐紅に染め上げた古今集の紅葉とどちらが盛り上がるでしょうか。



紅葉を遊覧する高瀬舟
その舟を操って押し流すほどにも
鮮やかに色づいた葉が
桁違いの量で川下に流れていく
ああ、これが大井川

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