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【玉葉集】25 のどかな春

百千鳥声のどかにて遠近の
山は霞める春の日暮らし

玉葉集・春歌上・25・藤原為子

 藤原為子が聴覚、視覚、時間感覚で春を堪能している。
 春の堪能と言えば『枕草子』。比べてみよう。

 春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎは少しあかりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる。

 『枕草子』は視覚に絞った叙述。夜明けの輝きを白と受け止め、その中心にある光点に紫を添わせている。やはり見事。

 漠然とした「春」から「山ぎは」、そして雲へとだんだん景色を絞り込んでいくかのような『枕草子』。対して藤原為子は寧ろ広げていく。百千の鳥。近くの山から遙かな山まで。そして一日中。
 緊密な美を追究する『枕草子』も良いが、春らしいのどかな広がりを表現する為子の春も素晴らしい。

幾百幾千の鳥
その声はあくまでおだやかで
遙か遠くの、そしてまたすぐ近くの
山々は霞んでいる
これが春の一日というものだ

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