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【玉葉集】春歌4/万葉風

梓弓
春立つらしも
もののふの
矢野の神山
霞たなびく

(玉葉集・春歌上・4・西園寺実兼)

梓弓
ああ、そうだ その弓が張るように春が立つようだ
武士たち
そう その武士たちの矢のような 矢野の神山に
霞がたなびいている

 春が来た。霞がたなびいている。

 それだけの歌に見えます。僕の勉強不足かもしれないんですけど。
 それだけですが本歌があります。『万葉集』巻10の巻頭歌です。

ひさかたの天の香具山このゆふべ
霞たなびく春立つらしも
(万葉集・巻10・1812)

遙か彼方に聳える天の香具山はこの夕方、
霞がたなびいている。どうやら春になったらしいよ。

 古歌の表現と枕詞と歌枕。そして「霞たなびく」という定型表現。
 西園寺実兼の詠んだ歌に新奇な要素は何一つありません。
 ただひたすらに古代の表現に対する強烈な憧憬が感じられます。

 その憧憬こそが実兼と為兼をつないだ思いだったのかもしれません。

☆ ☆ ☆

梓弓春の山辺と見るからに
頂白き桜島かも

 

 

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