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<ネタにできる古典(4)>悪役令嬢in平安王朝

(本文)
 藤壺・弘徽殿との上の御局は、ほどもなく近きに、藤壺の方には小一条女御、弘徽殿にはこの后(※安子。師輔の長女。村上帝の女御、後に中宮)の上りておはしましあへるを、いとやすからず、えやしづめがたくおはしましけむ、中隔の壁に穴を開けて、のぞかせたまひけるに、女御の御かたち、いとうつくしくめでたくおはしましければ、「むべ、ときめくにこそありけれ」と御覧ずるに、いとど心やましくならせたまひて、穴よりとほるばかりの土器かはらけの割れして、打たせたまへりければ、帝のおはしますほどにて、こればかりにはえ耐へさせたまはず、むつかりおはしまして…

(現代語訳)
 清涼殿内で藤壺・弘徽殿と呼ばれたお部屋は隣り合っていましたが、藤壺の方には小一条女御が、そして弘徽殿にはこの后(安子)が同時にお入りなさいました。安子様は小一条女御も呼ばれたことでムカムカを沈めかねていらしたのでしょうか、仕切りの壁に穴を開けてお隣を覗きなさいました。すると小一条女御のお姿がそれはそれはかわいらしく素敵でいらっしゃったので、「なぁるほど、帝の心が奪われるはずだわ」などと思ってじろじろ見てらっしゃるうちにますますイライラが募り、壁の穴を通るくらいの器のかけらを小一条女御にぽいぽい投げてぶつけなさいました。それはちょうど帝がいらした時でしたので、帝もこんな振る舞いにはとても我慢できずに腹を立てて文句をおっしゃいました。

大鏡 右大臣師輔

 『大鏡』より、悪役中宮・安子にまつわるエピソードです。安子さまのライバルの小一条女御は髪の長さで有名でした。彼女の髪があまりに長く、牛車に乗り込んだときでも髪の先端が建物の中に残っていたほどだったとか。

 そんな小一条女御と安子さまは同時に帝に呼ばれたようです。安子さまはセット扱いされて怒ります。プライドもありますでしょうし、そりゃ怒りますよね。

 安子さまの怒りはまず女御へ向かいます。壁に穴を開けて土器のかけらをぶつけてます。土器のかけらをぶつけられてる女御はきっと、何が起こったか分からないでしょう。安子さまは怒りの表現方法がダイレクトでちょっと可愛い。

 この後は帝がキレて安子の兄弟を謹慎させます。すると安子さまは逆ギレして帝を呼びつけ説教し、その場で処分を撤回させました。安子さま強い。

 この安子さま、別のエピソードでは下々の者たちにも目配りを怠らない有能なお妃でもあったみたいです。かっこいいなあ。

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