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タクティカルトレーニングとの上手な付き合い方(特別編前段)

最初に

これは今まで続いたタクティカルトレーニングとの上手な付き合い方の特別編前段です、特に現職自衛官の皆さんに向けた内容です。

私見から

私もサバイバルゲームを通じて、様々な方とお付き合いしますし、過去様々な陸海空現職自衛官の方々とお話しして、一緒に遊ぶ機会がありました。

ある程度ベテランの方も、若手の方もいらっしゃいましたが、大体サバゲやタクトレに凝ってる方で特に陸の方は共通して以下の事を言われる事が多いです。
1 陸自の訓練は遅れている
2 もっと市街地をやるべきだ
3 自衛隊は訓練の為の訓練で実戦志向は口だけ

そして自分の所属している部隊の訓練や上司に対して強い不満を持っている方が多いです。(分母が少ないから比較には正確性は足りません。)

不満の原因

不満の原因はどの隊員さんも前向きで「もっとこのような技術があるのに、もっとこんな訓練をすればいいのに上司が分かってくれない」「訓練の内容やマニュアルが遅れている」等…まとめると自分達の知識や技術をなんで認めてくれないか、といった不満でした。
これは趣味が高じてそのような技術や知識の探求に至っているから起こる事ですが、なぜこのような不満を抱く事になるのでしょう?

それは隊員の方々がそれぞれ与えられている任務(仕事)と自分が好きなジャンルの技術がマッチしていないからです。

例えばこのツイートをご覧ください。

これは千僧駐屯地に司令部を置く第3師団のツイッターです。
需品科の新隊員達がミシンの取り扱い方を訓練しています。

彼等はミシンの訓練をしていますが、それは需品科部隊で勤務する為に必要な技術だから訓練をしているのです。

陸海空自衛隊にはそれぞれの兵科と部隊があり、その部隊が与えられた任務を完遂できるように訓練が行われているのです。
つまり部隊の任務が後方支援や直接戦闘に関わらない部隊に所属する隊員にとってより優先順位の高い訓練は、それぞれの任務に直結する訓練なのです。
ここで必要なのは時間とコストの感覚です。
時間もコストも有限です、時間は例えば陸上自衛隊ではその部隊がどの位の実力があるか定期的にテストをされます。(これを検閲という)
海上自衛隊では戦闘艦はドックでの定期整備、訓練、任務のローテーションで運用されていますが、必ず実際の任務に就く前に練度判定があります。
時間はそのテストまでの時間です。
コストは訓練には燃料や食料、移動費(知り合い曰くこれが一番枯渇するらしい)、使用できる弾薬が限られています。
かけられるコストも有限なのです。

その限られたリソースの中で、優先順位をつけて訓練をすると、近接戦闘を主たる任務としない部隊では近接戦闘に直結する訓練は当然優先順位は下がってしまいます。
よく聞くのが「ゲリラコマンドに狙われる可能性があるのに、なぜ警戒自衛戦闘をもっと訓練しないのか」との言葉ですが、単純にその訓練より高い優先順位の訓練や業務があるからだと思われます。

それでは近接戦闘を主たる任務としている部隊の隊員さんからも不満の声が聞こえるのはなぜでしょうか。

それは部隊の任務は知っていても、基本的な戦術と部隊の運用を知らないからです。
部隊の運用に直接携わるのは一定の階級以上であるから仕方ないのですが…
「市街地の訓練をもっと…」と聞く事がありますが、そもそも市街地は戦闘に向かないのです。
これは陸上自衛隊を例にして、師団規模の戦術を考察すると分かる事ですが陸上自衛隊には様々な師団・旅団があります。
(機甲師団、即応旅団等々…)
師団は特に数字でナンバリングされているだけなので違いが分かりにくいのですが、例えば同じ師団の名前を冠しても隷下に偵察戦闘大隊はあっても戦車部隊はないとか、隷下にある普通科連隊でも他の師団と編成装備が異なるとか差異があります。

しかし共通して言える事は、普通科連隊が市街地で戦闘を行いその地域を確保するにはその勢力が少ないのです。
何故勢力が少ないと市街地戦闘に向かないかというと、防御を行う場合
近接戦闘部隊は対戦車ミサイル、戦車砲、小火器等の直射火器
野砲・迫撃砲・コマンドモーター等の曲射火器
これらの火器が連携して火力を発揮し、敵を撃破します。
つまり、近接戦闘部隊はそれぞれの火器の射程の届く範囲内にいないと連携が出来ないのです。

そして敵もただ黙って撃破される訳ではありません。
敵も攻撃から回避したり、隠蔽(カモフラージュすること)し、掩蔽(地形や地物を使って火力から自分達を防護すること)しながらこちらに攻撃をしつつ前進をしてきます。

それを地雷や鉄条網、地面に堀った穴で敵の動きを止め、火力を連携して敵を撃破していくのです。

市街地は防御に不向きな理由はここにあります。
一見すると構造物も沢山あり戦闘に向いていると思われる市街地は死角が無数に存在し、火力を連携させにくい場所なのです。
また死角が多い為、敵の侵攻を阻止しづらく気が付けば迂回した敵に包囲されてもおかしくありません。
組織的な連携を維持しながら市街地戦闘するにはその基幹となる普通科部隊が足りないのです。

攻撃に置き換えて考えても同じく火力を似たような事が言えます。
連携しにくい他、建物が無数に存在する為、市街地の区画を占領して支配(安全化)しなければいけません。それには多くの勢力を必要とし大変不経済なのです。

まとめると
〇 防御においては可能な限り狭い範囲に敵を集約させ、連携した火力で敵を撃破する。
〇 攻撃においては火力を可能な限り集中して、狭い攻撃範囲に衝撃力をもって敵の連携を分断して組織的な抵抗を破壊する。
この二つの事項を実現する為には市街地、少なくとも建物が密集する地域は避けなければいけません。
組織的な戦闘に市街地は不向きなのです。

以上の事から近接戦闘を主たる任務とする部隊においては、市街地を避けた狭隘した地域で防御を行い、敵を減らして攻勢転移するのが運用方法としては効率がよいのです。
つまり市街地戦闘訓練よりも、部隊の運用にあった野戦の訓練の方が優先順位は上になります。

これは市街地戦闘の訓練だけではなくCQBにおいても同じです。
そもそも高度な技能を必要とするCQBは一般の戦闘部隊には期待されていないのです。

アメリカ海兵隊を例にとると、CQBとは「特殊任務を有するMSPF(Maritime Special Purpose Force)が直接任務に基づき建物当に突入して任務達成するための技術、戦い方に関するもの。」とされています。
従ってMOUT(市街地戦闘)は全部隊が実施しますが、CQBは一部の部隊(MEU内のMSPF)が実施します。
※一般部隊もCQBを実施するが極めて限定的

ただし市街地戦闘もCQBも技術としては必要ですし、研究する事も必要です。
しかしそれは部隊で計画された野戦の訓練より優先順位が低いのです。
これが近接戦闘部隊に所属するタクティカルトレーニングやサバイバルゲームに凝る隊員さんが部隊の訓練や上司に対して強い不満を持つ原因だと思います。


まとめ

タクトレやサバゲが好きな隊員が、技術を持ち込みたいのに部隊や上司が認めてくれないと不満を抱く原因は
◯任務と合っていない
◯部隊の運用とあっていない
これと隊員さんのミスマッチが重なった結果が不満を抱くという事なのです。

ちょっと今回は長くなってしまったので2つに分割します。
後編は「何故、担当者(タクトレやサバゲ好きな隊員さん)がいなくなると廃れるのか」についてお話ししたいと思います。

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