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ルーベンス展に二度行った話(下)

ルーベンス展に二度行った話(上)の続きになります。

2018年10月27日(日)

上野駅で朝蕎麦を食べ、国立西洋美術館に着いたのは、開館の9時30分を少し過ぎた時間でした。(GoogleMapの罠にはまり、一度公園口を出て、再度駅に入り、蕎麦を食べて駅を出るときに改札でエラーを出すという不審行動のことは語りません)

チケット売り場は混んでいます。
朝一番の空いている時間を狙って来た人が多数いるということです。わたしもその中のひとりなのですが、チケット売り場には並びません。上野駅構内にある販売所でチケットは購入済みです。
ここは涼しい顔で入場します。(この瞬間、イヤな顔をしていた筈です)

二回来た理由は、ルーベンス展の絵を時間をかけて観たいことと、常設展のフェルメール作かもしれないと云われている『聖プラクセディス』を観ることです。

さて、ロッカーに荷物を預けて地下の展示場に向かいます。(常にノートパソコンを持ち歩いているため、バッグは時間の経過ととも、子泣きじじいのごとく、だんだん重くなるのです)

アントワープ大聖堂の4K映像を再び観ます。主祭壇の絵がイエスでは無くマリアなのは何故だろうと思っていたのですが、この大聖堂はそもそも聖母マリアに捧げるための聖堂だったのでした。(キリスト教の中の(外の?)マリア信仰に興味がありますが、それはまた別のお話)

クララに再会です。うん、いい子です。才気を感じさせる表情。瞳の中の光の反射……(また何か書きたい気持ちですが、一向に先に進まないので割愛します)

まず、全体の印象は、精緻に書いているものと、躍動的というか荒ら荒らしいものが、混在しているということです。
極端に感じたものは『セネカの死』のように顔は非常に微細に書き込まれていて、身体や周りの人物より浮いて見えるというもの。これは全体はルーベンスの工房で描かれていて顔はルーベンス本人が描いているのではとの解説があります。
また『ヘスペリデスの園で龍と戦うヘラクレス』に至っては、龍はフランス・スネイデル、ヘラクレスはルーベンスが描いているというように分業になっています。
絵画は、ひとりの作家が最初から最後まで描いているという思い込みがありましたので、ある意味新鮮でした。

ルーベンス展の目玉のひとつが『聖アンデレの殉教』です。
今まさに、磔刑に処されるところのイエスの弟子のひとりであるアンデレを描いています。(このときの十字架はX型です)
人は11人、3天使(数え方?)、馬が1頭。なので密度が濃いというか情報量が多いです。聖アンデレが主体というより、この状況そのものを描きたかったのだろうと推測します。

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天を仰ぐアンデレ。馬上のローマの総督(ギリシャ・パトラスの総督)と、総督に向かって両腕を広げ訴えるような表情の女性、十字架に取りつく人たち、アンデレを迎えに来た天使たち。群衆の一部と思われる乳飲み子を抱いた女性。
劇のクライマックスシーンを濃縮して一場面に収めたような絵になっています。
劇画でしょうか。

ルーベンスの一部の絵は、宗教あるいは神話という形を借りた娯楽としての絵画という一面があるのではないのだろうかと思いました。(怒られるぞ誰かに)
有名な神話の一場面やキリスト教の『殉教』を扱ったモチーフは、ヨーロッパの歴史の中で繰り返し繰り返し作品として作られてきたものです。(洗礼者ヨハネとサロメの、斬首にまつわるエトセトラとかみんな好きだよね)
ルーベンスは、これらのモチーフをより劇的に表現しているように思いました。

後知恵ですが、ルーベンスと彼の工房は、1400点以上の作品を世に出しています。注文が多くなり一人で捌ききれなくなって、工房を作ったようです。これは現代の売れっ子漫画家のようです。(いよいよ怒られます)
工房で作られた作品は、ルーベンスの手の入り度合で価格を変えていたようなので、ある意味正直です。サインだけのような物があったらちょっとどうかと思いますが。

もうひとつ後知恵です。『聖アンデレの殉教』の話として、ローマの総督は、怒る住民を恐れてアンデレの処刑を中止しようとしたけれど、アンデレはそれを拒否して天に召された、というものです。それを知ると、また違う印象になるのかと思います。

追記
音声ガイドなる機械を借りることができます。重要作品だけですが、絵の横に貼ってある番号と音声ガイドの同じ番号ボタンを押すと、タレントの長澤まさみさんが解説してくれます。ファンにはたまらないでしょうね。
借りるときに、女性の係りの人に、「どちらの耳を使われますか」と聞かれ、そんなのわしの勝手じゃ……と心の中で毒づきかけ、あ、そうか着けてくれるのかと気付いたのでした。変な緊張で着けて貰い、これが込みの値段となっているのか(多分)と思った次第です。

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